研究概要 |
ATP加水分解の自由エネルギーにおける水和の寄与を知るために、リン酸およびADP, ATP, NaH2PO4およびNa2HPO4等の水和状態を調べた。まず、スペクトル測定条件(濃度、イオン強度)におけるpK値をpH滴定によって測定し、スペクトルデータをごく最近開発した方法(J.Phys.Chem.A 2008)により水和層の総体積と誘電スペクトルを抽出し、複数のデバイ緩和成分に分解した。その結果を誘電緩和周波数で特徴づけられる水和各誘電緩和成分の量的比率を求めた。つぎに、PFG-SEプロトン-NMRによるヌクレオチドおよびピロリン酸水溶液の水の拡散係数測定を行う準備を進めている。誘電緩和分光が水分子集団の回転緩和特性を観るのに対して、パルス磁場勾配スピンエコー法(PFG-SE)では、水分子の並進拡散特性を調べることができる。実際はプロトンの拡散係数を測るが、水中でほとんどのプロトンが水に結合しているため水の拡散係数とみなせる。これまでポリアイオネンやポリビニル硫酸カリウムなどの水溶液中でバルクの水中より顕著に高い水の拡散係数が観測した。この測定の再現性を高めるため、試料セルのばらつき、溶液量の誤差の拡散係数測定に及ぼす影響を調べた。アクトミオシンタンパクの精製では、誘電緩和分光測定に供するための10mg/ml以上の高濃度の数mLのアクチンおよびミオシンS1溶液を作成し、水和測定のための誘電緩和分光測定を開始した。これまで、タンパク試料溶液に対してその透析外液を参照溶液とする方法を試みてきたところであるが、タンパク質溶液側の塩濃度が外液と異なる状況が発生するため、その対策を進めている。
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