本研究計画全体の目的は、ATPの加水分解エネルギーの物理的実体を解明するため、APT分解にともなう水の動的状態の変化を調べることである。今年度、誘電緩和法によるATPおよびその加水分解産物ADPなどの水和特性を測定し、HMWを含め水和各成分の量的比率の測定を行った。また、アクチンおよびミオシンS1の水和状態の特性を誘電緩和法による回転緩和情報とパルス磁場勾配スピンエコー(PFG-SE) NMRによる並進拡散係数測定を行った。その結果、アクチンフィラメント周りの水の並進拡散係数はバルクの水のそれを上回る値を示した。一方でアクチンモノマーの状態では、そのような顕著な変化は見られなかった。また、アクチンフィラメントにミオシンS1を結合させると、水の並進拡散係数はアクチンフィラメントのみの場合に比べさらに大きくなり、アクトS1の水和状態は、並進運動性の高い水が増加した状態にあるとの結果を得た。これは、誘電緩和分光法で得た結果とコンシステントである。この結果は、現在論文にまとめ投稿準備中にある。次に、ミオシンATP加水分解の中間状態を測定するためAMPPNP添加時のミオシンS1の水和状態を調べている。現在添加物効果の補正処理を進めている段階にある。滴定熱量計によるATP4Na塩の酸滴定によるプロトネーションの熱測定をおこなった。これはATP加水分解時にプロトン放出が付随して送る効果を知るためである。誘電緩和分光実験では、ヌクレオチドおよびその単純モデルとしてのリン酸塩の水和特性を測定した。中和度の違いによる水和状態の違いを明らかにすることができた。これは論文にまとめ投稿準備中である。21年度に引き続き、ヌクレオチドのPFG-SE NMRによる水拡散係数を測定を進めている。
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