昨年度から開発を続けてきた1分子計測用の顕微鏡がほぼ完成し、実用段階に入った。この顕微鏡の前段階の試作機による成果は今年度のNature Chemical Biology誌に発表され、同誌内のNews欄および日本経済新聞の朝刊で紹介された。この顕微鏡は、レーザートラップ法を改良してアクトミオシンの力発生直前の中間状態に関する情報を得ることが出来る唯一の装置であり、アクトミオシンのエネルギー変換機構に関する重要な情報を得ることが期待できる。試作機を改良することによって、エネルギー変換機構の定量的な解析が期待できる。本プロジェクトでは、ATP駆動タンパク質であるアクトミオシンのエネルギー変換機構を明らかにするのが大きな目的の1つであり、この目的に向けて大きく前進することが出来た。 また、本研究によってモデル化されたエネルギー変換機構において、水がどのような役割を果たしているのかを調べるのが第二の目的である。本プロジェクトの共同研究者である鈴木誠教授のグループでは、筋収縮を行うミオシン分子(ミオシンII)について水和状態解析を行っているため、本研究においても、ミオシンIIを対象とした実験系の構築を本年度から開始した。試作機の段階では、遺伝子工学的取り扱いが容易で実験しやすい小胞輸送タイプのミオシン分子(ミオシンVI)の計測であったが、ミオシンII分子は、遺伝子工学的取り扱いが確立していないのと、力発生直前の中間状態の寿命が短いため、実験の難易度が上昇する。ミオシンIIに対して定量的な測定を行えるような実験系の条件検討・工夫を重ねることによって測定可能なレベルにまで系を構築することが出来た。
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