研究領域 | 水を主役としたATPエネルギー変換 |
研究課題/領域番号 |
20118009
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩城 光宏 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (30432503)
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キーワード | モーター蛋白質 / ミオシン / 1分子計測 / 1分子操作 / レーザートラップ / 化学力学変換 |
研究概要 |
ATP分子の持つ自由エネルギーの大きな割合を占める、水分子のダイナミクスを繰り込んだ形でのエネルギー変換機構の実体論構築に向けて、ATP駆動型蛋白質の中でもミオシンを対象に実験を行っている。我々は、30種類以上あるミオシン分子の中から、2種類のモーターをモデル系として、解析を進めてきた。詳細な検討が可能なミオシンVについては、本プロジェクトで開発してきた新規1分子計測技術を用いて、分子レベルでの変換機構の描像が正確に記述できつつある。ミオシンVはATPのエネルギーを力学的な運動に変換する蛋白質であるが、その運動素過程をマイクロ秒、ナノメートルの分解能で観察できるようになった。従来の1分子計測で得られる情報よりもより詳細な過程を可視化することができるようになり、力学素過程では、ミオシン分子の構造変化によって駆動される過程と、ブラウン運動を整流することによって駆動される過程に分けることが出来た。さらに、各々の過程に対して外力の摂動を加えることで、ATPの持つ化学エネルギー(20kT程度)は、3kTの構造変化駆動と15kTのブラウン運動整流駆動に変換されていることが明らかになった。そこで、力学運動で大きなエネルギーを占めるブラウン運動整流過程にフォーカスし、共溶媒による水和状態摂動時の応答を観察した。ブラウン運動整流過程では、ミオシン分子とそのレールとなるアクチンフィラメントとの一時的な相互作用を発生することがこれまでの知見で示唆されていたが、共溶媒としてショ糖を加えることによって、フィラメントに沿った一方向運動を観察することが出来た。この実験データは、2010年に京都大学の木下教授らと発表した、水の並進エントロピー効果に基づくアクチンミオシン間の相互作用ポテンシャルの理論解析と直接的に対応付けが可能なものであり、理論的にはショ糖の添加によって相互作用が強まる傾向が予言されている。今回の実験結果は、理論的な予言と矛盾しないものであり、現在詳細な解析を行っている所である。 上記実験と並行して、東北大学の鈴木教授が対象としている筋肉のミオシン(ミオシンII)についても実験を行っている。蛋白質の特性によって、ミオシンVよりも1分子計測の難易度が格段に上がるため、新規計測ツールとして、DNAorigamiを融合した形での計測系を立ち上げている。DNAorigamiは1ナノメートル精度でナノ構造体をデザインすることが可能で、蛋白質分子とハイブリッドさせることも可能である。筋肉のミオシンは、アクチンとの相互作用時間が短く力学運動の素過程を観察することが従来の方法では困難である。我々は、レーザートラップとDNAorigamiとの融合により、上記問題点を克服するための実験系を立ち上げつつある。現在基礎データを取得中であり、来年度中には実験を行う予定である。鈴木教授のハイパーモバイル水観察は、この筋肉ミオシンによって行われているため、1分子計測の結果と合わせて、考察中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規計測技術の開発によって、本プロジェクトが立ち上がった時の目標である、アクチンミオシン間の相互作用の可視化と共溶媒存在下における相互作用観察が実現できたため、当初目標をすでに達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
木下教授の水の並進エントロピー効果をベースにしたアクチンミオシン間の相互作用ポテンシャル計算と直接対応付け可能な実験データを得ることが可能になったため、今後は、共溶媒添加時における相互作用ポテンシャルの変化を調べて、理論解析と合わせて水のダイナミクスの役割に関する考察を行う予定である。
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