研究概要 |
今年度は,2009年度にほぼ出来ていた回転電場印可・温度調節可能な顕微鏡について,部品の自作などによって低温観察時の結露を防ぐ仕組みを完成させ,実際にF1-ATPaseの回転を低温で観察して高濃度のATPでもステップが観察できることを確認した.更に実際の実験を行いながら使い勝手の改善を行う予定である.また,非水溶媒としてDMSOを30%加えた条件下でF1のステップ回転時の角速度の低下が既に観察されていたが,DMSOの溶媒の粘度に対する影響をレーザーピンセットで捕捉した粒子のブラウン運動や,F1に固定した回転プローブに対する揺動散逸関係を利用した解析から見積り,ステップ回転時に発生するトルクが減少していることが確認できた.更にストールトルクも減少していることが示されたが,定量的な解析はこれからである.ヌクレオチドの結合の温度依存性の解析については単離サブユニットとα_3β_3γ複合体に対する各種ヌクレオチドの結合のデータがほぼ出そろってきており,エントロピー変化とエンタルピー変化の違いなどが明らかになってきている.以上の結果は依然として全て学会発表止まりであるが,データを確実にして論文投稿にもってゆく予定である. 2010年度の大きな成果としては,非平衡物理学の成果であるHarada-Sasa等式を利用したF1-ATPaseの回転に伴うエネルギーの散逸の見積がある(Toyabe et.al PRL2010).これは回転自由度でのエネルギーの散逸をATPの加水分解自由エネルギーや外部トルクを制御して測定したもので,その結果,F1-ATPaseは実験条件下でほぼ100%の効率でATPの加水分解自由工ネルギーを回転自由度を介して散逸させることが分かった.これは分子機械の理解のための大きな進歩であると考えている.
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