研究概要 |
人間の高次脳機能の中でも、「顔認知」は「言語認知」と並んで、他者ならびに社会に適応する上で最も重要なものの1つと考えられる。本研究の目的は、脳波、脳磁図、機能的磁気共鳴画像(fMRI)、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)といった非侵襲的脳機能測定法を用い、基礎研究および臨床研究を行うことによって、人間における顔認知機構を明らかにすることである。 2011年度は7編の英文原著論文を発表した。いずれも顔認知研究の進展に大きく寄与する研究であった。そのうち、中央大学と共同研究を行っている「乳児の顔認知」に関する代表的な論文を紹介する。 Kobayashi M,Kakigi R他4名(2012)Do infants recognize the Arcimboldo images as faces?Behavioral and near-infrared spectroscopic study.J Exp Child Psychol 111(1):22-36. 本研究では,乳児における「アルチンボルドの顔のだまし絵」の認識を注視行動および近赤外線分光法(NIRS)によって検討した。実験1では,顔に見える正立のだまし絵と顔に見えない倒立のだまし絵を対提示し,生後5-6ヶ月児および7-8ヶ月児の注視時間を計測した結果,生後7-8ヶ月児のみ正立のアルチンボルドのだまし絵を有意に選好した。実験2ではアルチンボルドのだまし絵を観察中の生後7-8ヶ月児の脳活動を計測した結果,正立のだまし絵を観察中でのみ左側頭部位の脳活動が有意に上昇することが示された。これらの結果は,アルチンボルドのだまし絵を顔として認識する能力が生後7ヶ月ごろに発達し,その処理は左側頭部位が関与していることを示唆するものである。
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