平成24-25年度の代表的な研究成果として2つをあげる。 自己意識情動(罪悪感・恥ずかしさなど)は、基本情動(喜び・悲しみ・怒りなど)とは異なる高次な社会情動である。そのメカニズムを明らかにするため、様々な表情の自己顔画像を被験者本人に見せ、明らかに奇妙な顔や写りの悪い自己顔を見せて、強い恥ずかしさを感じた時の脳活動を解析した。さらに、自己顔によって惹起される恥ずかしさを増大させるために、他者の目(観察)を導入することで社会的な状況を2台のMRIの同時計測により実現した。その結果、相手からの観察により自己顔への恥ずかしさがより増大したヒトほど右島皮質の活動が増大することが明らかになった。 よく知っている著名人の顔であっても、白目と黒目の明暗関係を反転させた目にすると誰の顔かわかりにくくなる。ブレア錯視(Tony Blair illusion)として知られるこの奇妙な顔は、乳児には‘顔’として見えているのかどうかを、近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy;NIRS)を用いて計測した。その結果、(1) 正常な目の顔を見ているときは脳活動が上昇したが、白黒反転目では上昇しなかった。(2) 正常な目を見ているとき、脳の右後側頭部が強く活動した。これらの結果は、生後5ヶ月以降になると乳児はヒト特有の白目・黒目をもつ顔だけを‘顔’として認識すること、その処理は脳の右半球で行われていることを示唆すると考えられた。今回の研究は、赤ちゃんの脳内でヒト特有の目に反応する神経基盤を明らかにした世界で初めての研究である。 5年間の研究成果を代表的班員8名(グループ)が英文論文にまとめ、Japanese Psychological Research誌(Wiley社発行)の2014年第1号に特集号として刊行された(編者は申請者)。
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