研究実績の概要 |
本研究課題では、粒子状物質・エアロゾルやそれらに含有される化学物質の健康影響について、免疫担当細胞と気道上皮細胞への影響に注目し、実験的に評価することにより、健康影響を規定する要因を明らかにすること、また、メカニズムを分子レベルで解析することにより、バイオマーカーの同定や予防対策の確立に役立てることを目的としている。 これまでに、免疫担当細胞と気道上皮細胞に対する毒性や活性の変化に関わる影響は、微小粒子・エアロゾルに含有される化学物質種により異なること、同じ基本構造を有するキノン体と水酸化体や異性体間でも影響が異なる可能性も見出した。 当該年度は、それら化学物質の影響の細胞内メカニズムを明らかにするため、活性酸素種(ROS)の生成やシグナル伝達系への作用について検討した。化学物質は、ナフタレン、1,2-ナフトキノン(NQ)、1,4-NQ、1,2-ジヒドロキシナフタレン(DN)、1,4-DN、フェナントレン、9,10-フェナントラキノン(PQ)、1,4-PQ、ピレン、1-ニトロピレン、1-アミノピレンを対象とした。細胞は、正常ヒト気道上皮細胞株 (BEAS-2) を使用した。シグナル伝達系としては、p38分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ、MAPK/細胞外シグナル調節キナーゼキナーゼ、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ、甲状腺ホルモン受容体、芳香族炭化水素受容体、エストロゲン受容体、アンドロゲン受容体を対象とした。この結果、 ある種のPAH誘導体は、標的細胞に対し、直接的あるいはROS生成による酸化ストレスを介して、タンパクリン酸化経路を活性化することや核内受容体に作用することにより、転写因子を調節し、炎症や傷害に関わるタンパクの発現を誘導する可能性が示唆された。
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