研究概要 |
近年、国内起源の大気汚染物質の影響のみならず、黄砂を含めた広域・越境汚染に基づく微小粒子・エアロゾルによる健康影響を明らかにする必要性が増している。微小粒子・エアロゾルは、成分等の相違や二次生成・変化が存在するため、これらに起因する健康影響の変動や相違の存在が予想されるが、その詳細や決定要因は明らかにされていない。一方、デイーゼル排気微粒子や黄砂、大気中微小粒子等の健康影響は、疫学的にも実験的にも、アレルギー疾患や呼吸器疾患を有する集団に発現しやすい。そのため、高感受性と考えられるこれらの疾患の内在メカニズムにおいて重要な役割を演ずる免疫応答や微小粒子・エアロゾルと呼吸器の第一の物理化学的接点である気道上皮にそれらが及ぼす影響を明らかにする必要がある。 本研究課題では、発生源や成分等が異なる微小粒子・エアロゾルやそれらに含有される化学物質の健康影響について、免疫応答を担う免疫担当細胞と気道上皮細胞への影響に注目し、実験的に評価することにより、健康影響を規定する要因を明らかにすること、また、メカニズムを分子レベルで解析することにより、バイオマーカーの同定や予防対策の確立に役立てることを目的とした。 具体的には、免疫担当細胞については、アトピー素因を有するNC/Ngaマウスに由来する脾細胞と骨髄由来樹状細胞(BMDC)を、気道上皮に関しては正常ヒト気道上皮細胞株であるBEAS-2B細胞を用いることとした。 大気汚染物質としては、微小粒子・エアロゾルに含有される化学物質であり、先行研究により呼吸器・免疫系への悪影響が指摘されているベンゾ[a]ピレン(BaP)、及び、フェナントレンキノン(PQ)、ナフトキノン(NQ)を主たる検討対象とし、PQ、NQの基本骨格であるフェナントレン、ナフタレンとその酸化体や異性体についても検討を加えた。 免疫応答への影響は、脾細胞については、細胞表面分子抗原提示細胞の活性化マーカー:MHC class II,CD80,CD86、T細胞マーカー:TCR,CD3,CD28、リンパ球の活性化マーカー:CD69等)の発現と培養上清中のサイトカイン(IFN-γ,IL-4,IL-10,IL-17,IL-18等)、ダニ抗原(アレルゲン) 存在下の細胞増殖等を評価した。BMDCについては、成熟・活性化に関わる細胞表面分子(MHC class II,CD80,CD86,DEC205,CD83,CCR7,CXCR4等)の発現を検討し、活性化が認められた場合は、ダニ抗原特異的な抗原提示機能として、T細胞増殖誘導を評価した。気道上皮への影響については、細胞増殖/生存率をWST-1による発色法により、アポトーシスの指標である活性型Caspase-3の発現及び接着分子であるICAM-1(CD54)とムチン-1の発現等をフローサイトメトリーにより、炎症性サイトカイン・ケモカインと可溶性ICAM-1の産生等をELISA法により解析した。
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