研究実績の概要 |
我々が物を見た時、音を聞いた時などに感じる、主観的な体験の質(クオリア)は、言語化できない、定量化できないものとされてきた。しかしながら、ある体験に対するクオリアを単体で特徴付けようとするのではなく、他のクオリアとの間の関係性から特徴付けることは可能である。関係性とは例えば、似ている、似ていないという関係性のことを指す。具体的には、「赤」は「ピンク」には似ているが、「青」には似ていないといった関係性である。このような関係性をたくさん集めてくると、「赤」そのものを定量化していることと実質的に同じになる。この考えに基づけば、定量化不可能であると考えられたクオリアは、様々なクオリア同士の関係性が織り成す構造、「クオリア構造」によって、定量化できる。 本研究課題の目的は、クオリア構造によって定量化される、クオリアと脳活動との間にある数理的な関係性を明らかにすることである。 今年度はまず、異なる被験者のクオリア構造同士をラベルなしで比較する, unsupervised alignmentの手法の開発を行った。開発した手法をA01土谷班が大規模心理物理実験によって抽出した、色のクオリア構造のデータに適用して、異なる被験者間でクオリア構造の対応が取れることを示した。 また、ニューラルモデルネットワークを使って、実験で観測されるクオリア構造や神経活動の対応しえる、モデルの学習則の探索を行った。特に、contrastive learningと呼ばれる教師なし学習に着目し、モデルの潜在空間がfew shot learningを可能とする構造を持っていることを示した(片岡, 大泉, 神経回路学会, 2021)。
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