研究実績の概要 |
今年度は異なる被験者が持つ、主観的体験の構造(クオリア構造)同士を、ラベルなしで比較する教師なしアラインメントの手法の開発を行った。これは例えば、ある被験者が感じる「赤」と別の被験者が感じる「赤」が同じものであると仮定せずに、構造同士を関係性のみの情報だけから比較することに対応する。我々は、クオリア構造同士の教師なしアラインメントにGromov-Wasserstein最適輸送と呼ばれる方法を用いることを提案した。 開発した教師なしアラインメントの手法を、A01土谷班が大規模心理物理実験によって抽出した、93色の色の類似度データに適用した。結果、異なる被験者間で色の類似度構造が、色の類似度関係という情報のみから正確にアラインできることを示した。この結果は異なる被験者間で、色の類似度構造が本質的に同じものであるということを示唆する。一方、定型色覚を持つ被験者群の色の類似度構造と、非定型色覚を持つ被験者群の色の類似度構造は、教師なしでアラインすることはできなかった。この研究成果は論文としてまとめ、プレプリントをPsyArXivで公開した(Kawakita et al., 2023, PsyAriXiv)。公開と同時に大きな反響を得ている。https://psyarxiv.com/h3pqm/
この手法の汎用性を確かめるために、我々は色のクオリア構造だけでなく、一般の物体のクオリア構造にも適用した。用いたデータはTHINGSと呼ばれる公開データセットで、1854種類の物体に対する類似度判断のデータである。このデータにおいても、異なる被験者間で物体の類似度構造同士が教師なしでアラインできることを示した(Kawakita et al., 2023)。
同じ手法を用いて、B01山田班が記録したfMRIデータから得る脳活動の構造とクオリア構造との対応関係を調べた。現在もデータ解析を進めている。
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