研究領域 | 機能性ラマンプローブによる革新的多重イメージング |
研究課題/領域番号 |
20H05724
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神谷 真子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (90596462)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | ラマンプローブ / 多重検出 |
研究実績の概要 |
初年度においては、生体内の酵素と反応してラマン信号がoffからonに変化するactivatable型ラマンプローブを開発するべく検討を行った。まず初めに、目的とするプローブを開発するにあたり適切な色素母核を探索するべく、以前までに開発した9位にニトリルを有するキサンテン誘導体の更なる構造展開を行った。具体的には、小関グループの高速SRS顕微鏡の励起波長843 nmの前期共鳴条件となる波長域(620-750 nm) に分子吸収を持つよう、キサンテンの 10 位の原子はケイ素または炭素、6位は酵素基質部位を導入できるようフリーのアミンとし、3位のアミノ基上の置換基を振った9CN-pyronine誘導体を合成した。合成した化合物はいずれも、前期共鳴条件を満たす吸収特性を示し、silent regionで強いSRS信号を示すことを確認した。さらに、緩衝液中での安定性や細胞内成分との反応性を評価したところ、9CN-JCPが生理的条件下で安定なプローブ母核であることを見出した。次に、9CN-JCPのニトリル基を同位体置換することでラマンシフトが異なる4つのプローブ母核を合成し、これらのアミノ基にアミノペプチダーゼやグリコシダーゼの基質部位を導入することで、4つの酵素を標的としたactivatable 型ラマンプローブを開発した。これらのプローブはいずれも酵素反応前は波長が短くSRS信号が低く抑えられているが、それぞれの標的酵素との反応によって長波長化しSRS信号がactivateされること、さらにこれらのSRS信号が同時に分離検出可能な異なるラマンシフト値で得られることも確認した。さらに、開発した4つのラマンプローブを酵素活性パターンが異なる細胞に同時に適用したところ、4つの標的酵素の活性を同時検出でき、異なる酵素活性パターンをSRS 画像として描出できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アルキン・ニトリルなどの官能基を用いた場合に得られるラマンスペクトルの線幅は、蛍光スペクトルの線幅に対して50~200倍シャープであるため、蛍光法の色数の壁(同時検出が可能な分子数:4~5色程度)を突破し、細胞における多数の標的分子を同時検出する手法として期待されている。しかしながら、ラマン信号は分子振動であるため、その信号強度を制御する(on/offさせる)ことは極めて困難であり、従来のラマンプローブ(always-on型)では、生きた生物試料の動的な現象を可視化することは困難であった。このような状況の中本研究では、共鳴効果を用いることで、ラマン信号のactivationが可能であることを示した。つまり、標的分子との反応前後で、吸収波長が非共鳴条件から前期共鳴条件に変化するよう分子を設計することで、生きた細胞内の標的酵素と反応して初めてラマン信号を発するactivatable型ラマンプローブの分子設計法を世界に先駆けて確立した。このように生体内分子との応答性を示す機能性ラマンプローブの報告は殆どなく、ラマンイメージング分野における画期的な成果であると考えている。また、確立した“吸収波長変化を利用した機能性ラマンプローブの信号制御原理”は他の分子を標的としたラマンプローブ設計においても一般化され得るものである。本設計法に則り、同時に複数の標的分子を可視化できる機能性ラマンプローブ群を拡充することができれば、ラマン顕微法の多重検出能を活かしたマルチターゲットな生命科学研究が大きく発展し、生命現象の更なる理解につながることが期待される。 これらの成果は当初目標としていた計画以上の成果であったため、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に開発したactivatable型ラマンプローブの更なる拡張を目指し、キサンテン環の9位のニトリルをアルキンに置換した導入した誘導体を開発し、開発済みの誘導体との同時検出が可能か、また同位体置換によりラマンシフト値の調節が可能か、またその安定性について評価する。さらに、キサンテン環以外の色素骨格を母核とした新たなラマンプローブの開発にも取り組み、既存の色素と比較した際のラマンシフトや強度、安定性についても評価する。 また、洗浄操作なしに標的構造を特異的かつ多重に検出するラマンプローブとして、課題②の「標的蛋白質にラベル化されて初めてラマン信号を発する環境応答型ラマンプローブ」の開発にも取り組む。具体的には、クマリンーシアニンハイブリッド色素など、アルキンやニトリルなどのラマンタグ導入位置以外に、分子内求核基を導入可能な色素骨格に関して一連のパイロット化合物を合成し、“蛋白へのラベル化前はラマン信号が低く抑えられているが(非共鳴)、蛋白へのラベル化後は吸収が長波長化してラマン信号が増強する(前期共鳴)”特性を有する誘導体を探索する。標的蛋白へのラベル化には、Halo-tag, SNAP-tagなどのタグ蛋白や蛋白質リガンドを利用する。さらに、タグ蛋白を発現する培養細胞を用いて、開発したプローブの細胞膜透過性・細胞内局在の評価を行うとともに、タグ蛋白にラベル化されることでラマン信号強度が増強するか、洗浄操作なしに標的構造を検出することが可能か、またその検出感度について精査する。また適宜、色素母核、分子内求核基の最適化を行い、目的とする環境応答型ラマンプローブの開発を目指す。
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