前年度に続き、9位にニトリルを有するピロニン誘導体(9CNピロニン誘導体)の更なる構造展開を実施した。具体的には、10位がTeの9CNピロニン誘導体を開発したところ、活性酸素種や光酸化によりTeが酸化されることで、吸収波長が長波長化し、前期共鳴ラマン効果によるラマン信号の増強が生じることを示した。本知見を活用し、赤色光照射によってラマン信号が増大するphotoactivatable型ラマンプロ-ブを開発した(Chem. Asian J. 2023)。 また、9CNピロニン骨格の3位のアミノ基をヒドロキシ基に変換した9CNロドール骨格が高い凝集性を示す性質を利用して、酵素反応前は凝集が起こりづらいが、酵素反応後に凝集性が高まることで細胞内滞留性が向上する新規activatable型ラマンプローブを開発した。つまり、9CNロドールを母核として、アミノペプチダーゼ・グリコシダーゼを標的としたプローブを開発したところ、酵素反応による吸収波長の長波長化に伴う前期共鳴ラマン効果の増大によってラマン信号が増強されるのに加え、凝集体形成能も増強されることを示した。また、小幡班・小関班と共同し、開発したプローブをショウジョウバエ組織に適用して、誘導ラマン散乱顕微法により観察した結果、標的酵素発現領域のみで凝集体形成が観察され、標的酵素発現領域を高選択的かつ高感度に検出できることを示した(J. Am. Chem. Soc. 2023)。 また、ジアリールエテン骨格を母核とした光スイッチングラマンプローブを開発した。つまり、光照射により 開環フォームと閉環フォームがスイッチングすることで、ラマン信号が光制御可能な分子を開発した。さらに、ミトコンドリア局在性プローブを開発し、小関班が開発した超解像ラマン顕微鏡を用いて観察したところ、空間分解能が向上することを確認した。
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