研究領域 | 高分子材料と高分子鎖の精密分解科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05736
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
畝山 多加志 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10524720)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | 高分子 / シミュレーション / 粗視化 / 切断 / 分解 |
研究実績の概要 |
昨年度に理論的に考えた高分子の分解過程のモデルを用いて、実際の劣化過程において生じる高分子材料の物性変化についての考察を進めた。分解モデルを用いることで、高分子を構成する結合が完全にランダムに切断される場合、高分子末端の結合のみが選択的に切断される場合、そして両者が混在している場合について解析的に取り扱えるようになった。この結果を用いて、平均分子量や分子量分布に依存した物性が分解の進行とともにどのように変化していくかを予測することができる。今年度は特に物性の中でもレオロジー的な性質に着目して理論的な考察および実験との比較を試みた。理論的には高分子のレオロジーを記述するために既にさまざまな分子モデルが提案されており、分子量分布をそれらの分子モデルと組み合わせることでレオロジー特性の予測が可能となる。特に、高分子の分子量が低くからみあいの効果が無視できるような場合においては、解析解のある単純な Rouse モデルによってレオロジーをよく記述できるので、半解析的に線形粘弾性やゼロ剪断粘度といったレオロジー的性質を予測できる。 このようなモデルの妥当性を検証するため、熱劣化させたさまざまな高分子のレオロジー特性を測定してモデルとの比較を行った。特に、理想的なランダム分解に近い挙動を示し、分子量の低いポリスチレン試料および理想的な末端分解に近い挙動を示すポリカプロラクトン試料について中心的に測定を行った。ポリスチレン試料については高温の空気環境下で酸化した試料の線形粘弾性を測定したところ、劣化の進行とともに緩和時間が顕著に短くなる様子を確認できた。線形粘弾性の変化は理論モデルの予測する形とよく一致しており、単純なモデルで劣化時の物性変化を記述できることがわかった。 また、理論や実験の他に、粗視化分子モデルによって高分子鎖の分解をともなう系の計算や結晶性高分子のモデル化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度構築した理論モデルを用いた劣化中のレオロジー挙動の変化の予測は実験的に得られたレオロジーデータと定性的に一致しており、理論および熱劣化試験は順調に進められているものと言える。他の班との連携は移動が制限されていること等もありまだ十分には進められていない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
理論的な予測を実験だけでなくシミュレーションデータを通しても検証するため、分解過程を取り込んだ分子動力学計算や、分子量の長くからみあった高分子系における分子量分布の効果のシミュレーション等を試みる。また、結晶性高分子固体についての粗視化モデルの開発が進み、力学挙動のシミュレーションが可能となってきた。結晶性高分子固体は高分子の切断によってその力学物性が劣化することが知られているが、どのような機構で切断が力学物性に影響しているのかよくわかっていない。粗視化モデルに切断効果を組み込んでシミュレーションを行うことで、結晶性高分子固体の力学物性の劣化の再現と劣化機構の理解を目指す。 また、領域中の他の班との連携研究を進める。各班によってそれぞれさまざまな条件下における劣化や分解挙動が調べられてきている。それらのデータと理論モデルや粗視化計算を連携させることで、劣化現象のより深い理解や劣化挙動の予測を可能にすることを目指す。
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