研究領域 | 重水素学:重水素が示す特性の理解と活用 |
研究課題/領域番号 |
20H05738
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
澤間 善成 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (80552413)
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研究分担者 |
江坂 幸宏 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (70244530)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | 重水素標識化 / 不均一系触媒 / 有機触媒 / 重水 |
研究実績の概要 |
重水素(D)は水素(H)の放射性のない安定同位体として認識されているが、有機化合物のC-H結合をC-D結合に置換した化合物の物性は明らかに異なる(同位体効果;C-D結合はC-H結合より安定)。一方、機器分析性能は急速に向上しており、重水素置換化合物は親化合物(未置換体)との類似性を利用したトレーサーとして有用視される。この相反する価値観を理解し制御することで新たな学術的な変革を起こすことができる。そのため、多様でユニークな重水素置換化合物の合成法(重水素化)の開発が切望されている。本計画では、未踏分野である生体関連物質(脂質・脂肪酸・医薬品・合成前駆体など)の重水素置換体合成法を確立し、他の研究代表者らと連携し新たな医薬品や機能性材料を創製することを目的とする。2020年度は、活性炭担持型白金族触媒を用いて特定の医薬品の多重重水素化ならびに、原料となる基質の重水素化に続く更なる変換による重水素化医薬品の構築に成功した。また、脂質類の直接的多重重水素化も低重水素化率ではあるが進行することを見出すことができた。一方、金属フリーな反応条件においても、オレフィン類の部分的重水素化体合成法の開発に成功した。重水素化オレフィンは、合成前駆体として有用である。現在、得られた重水素化体の物性を評価している。医薬品のチトクロームp450における代謝活性評価において、C-H部位をC-D結合に変換したことによる安定性(一次同位体効果)と、それ以外の所にC-D結合に変換した効果(二次同位体効果)を検証している。また、研究分担者や研究協力者と連携し、重水素標識ヌクレオシド類の調製法を確立した。そこで、DNA, RNA損傷分析のMS分析におけるトレーサーとしての実用検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した様に、計画研究は概ね順調に進行している。 既存医薬品の重水素化体の合成;我々は安価な重水素源である重水と2-PrOHの混合溶媒中、適切な活性炭担持型白金族系触媒を用いることで、多様な有機分子のC-H結合をC-D結合に置き換える手法(H-D交換反応、多重重水素化)を確立している。この手法を応用し、既存医薬品の重水素化体を合成した。また、合成前駆体の重水素化を行うとともに、全合成的手法による重水素化医薬品の合成を達成した。合成した重水素化医薬品の代謝活性を現在解析中である。 オレフィン類の重水素化;重水素化されたオレフィン類は、多様な機能性物質の合成材料として価値がある。しかし、オレフィン類は異性化や還元などの副反応が問題となり、効率良く重水素原子を導入することが困難である。そこで、金属フリー条件によるオレフィン体の重水素化法や、試薬への重水素化に伴う更なる変換を検討し、部分的に重水素原子が導入された化合物の合成法を見出しつつある。 重水素標識ヌクレオシドの合成;リボース類の白金族触媒的多重重水素化法を利用して、重水素で標識されたヌクレオシド類を合成した。現在、DNA, RNA損傷分析における実用的利用研究を実行している。
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今後の研究の推進方策 |
既存医薬品の重水素化体の合成;合成した重水素化医薬品の代謝活性の結果を考慮しつつ、異なる部位への重水素導入や、位置選択的重水素導入を行い、調製した重水素導入体の医薬品としての性能を検証する。 オレフィン類の重水素化;更なる効率化(重水素化率の向上等)をはかり、基質適用例を拡充しつつ実用的合成法として確立する。 重水素標識ヌクレオシドの合成;引き続き、多様なヌクレオシド類を合成し、DNA, RNA損傷分析を行っていく。 他の脂質・脂肪酸・医薬品・合成前駆体など重水素導入法を継続的に確立し、生命現象の解明研究へと応用していく。
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