計画研究
本研究は、生体内の細胞・臓器・個体レベルで起きる様々な分子レベルの相互作用を数理モデル化して、その動態を包括的に理解することを目指したものである。多臓器にわたる全身性疾患の個別化医療等の実現のためには様々な臓器を包含した仮想生体の構築が不可欠であるが、実証実験を伴って精度検証したものは少ない。そこで、本研究では、仮想生体を構築する第一歩として、代謝の化学的な側面をモデル化し、臓器内で起きる空間的局在や細胞間の物質収支を考慮したヘテロな環境を再現する。これらを他班にて構築される臓器モデル培養系を利用して検証し、最終的には多臓器チップとして臓器間の相互作用のモデル化・検証も行う。細胞内外の相互作用物質を特定するためのメタボローム解析や、モデル検証のプロセスを繰り返すことにより、臓器間連携の再現やそのメカニズムの理解、特に生化学的な合理性の解明を研究目的とする。本年度の実績としては、まず分子レベルのモデルとして、肝臓の臓器内局在を考慮した代謝パスウェイの数理モデルを構築した。また、分子レベルの検証を実施するために、前処理や測定法の検討、実際の臨床検体の測定等も進めている。更には長期的な測定においても定量値の再現性を向上させる補正方法も開発した。今後は、肝臓の数理モデルについて、メタボローム解析も含めた分子レベルの検証実験を行う。肝線維化については、肝臓組織の形状を再現し、投薬による肝臓のダメージと肝線維化によるコラーゲンの蓄積の経時的な変化を、動物実験と画像上で比較検証する。他班との連携については、肝臓と腎臓の共培養を行った細胞のメタボローム解析とプロテオーム解析の結果を用いた統合解析なども実施する。また、これらの基盤となる測定技術に関しても最適化する必要があり、高感度化だけでなく、定量値の再現性や網羅性が高い測定方法を確立する。
2: おおむね順調に進展している
本年度の実績としては、まず分子レベルのモデルとして、肝臓の臓器内局在を考慮した代謝パスウェイの数理モデルを構築した。その際、微分方程式を用いて代謝の経時的な変化を再現し、解糖系、TCA回路、グルタチオン代謝経路等を結合し、かつ細胞内外の物質収支も考慮した。また、代謝物を測定するメタボローム解析において、更に分子レベルの検証を実施するためには、他班の研究テーマも含めて幅広く様々な細胞や培地、血液サンプル等を測定する必要がある。このための前処理や測定方法の検討、実際の臨床検体の測定等も進めている。更には長期的な測定でも定量値の再現性を向上させる補正方法も開発した。
まず肝臓の数理モデルについては、メタボローム解析も含めた分子レベルの検証実験を行う。具体的には、対象とする肝臓の代謝に関して、既知の条件(酸素濃度の違い)を含めて培養細胞レベルでデータを採取し、組織の局在(門脈近くと静脈近く)による代謝物の違いについて検証する。これにより肝臓の臓器内局在を考慮した代謝シミュレーションの数理モデルを構築し、臓器内で代謝の挙動が異なることを再現する。また、絶食時と摂食時の解糖系の再現や、アセトアミノフェンを投与した場合の代謝の変化や感度解析まで実施する。肝線維化については、細胞・臓器レベルのモデルとして、肝細胞、星細胞等の細胞の局在も含めて肝臓組織の形状を再現し、投薬による肝臓のダメージと肝線維化によるコラーゲンの蓄積の経時的な変化を、動物実験と画像上で比較検証する。一定の範囲であれば線維化が回復するヒーリング機能もモデルに取り込む。既に現状のモデルでも感度解析などにより試験的な成果を含めて論文投稿しており、同時にモデルの拡張と多面的な評価試験を現在進めている。他班との連携については、肝臓と腎臓の共培養を行った細胞のメタボローム解析とプロテオーム解析の結果を用いた統合解析なども実施し、これらの論文化を進める。また、他班において臓器チップの開発や肝臓チップとの共培養を試みている、腸や腎臓等の実験系を対象として、同様に複数臓器の数理モデルを連結することにより、臓器間での相互作用が関連するような疾患のメカニズム解明を進める。また、培養細胞や培地のメタボローム解析による検証のために培養チップ中のサンプル測定などを実施しているが、チップの素材や培養細胞ごとに一部の物質が吸着するなどの課題も見えてきたため、これらを解決しつつ、網羅性がある測定技術も確立する。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 3件、 査読あり 19件、 オープンアクセス 19件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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