研究領域 | 仮想人体構築学チップ上に再現した臓器からみる全身代謝の分子ネットワーク |
研究課題/領域番号 |
20H05743
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
杉本 昌弘 東京医科大学, 医学部, 教授 (30458963)
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研究分担者 |
斎藤 輪太郎 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任教授 (40348842)
前田 和勲 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 助教 (50631230)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | 生体医工学 |
研究実績の概要 |
数理モデル班では、細胞内の様々な分子の相互作用を数理モデル化し、細胞内外で同時に起こる多数のイベントがどのような相互作用を経て表現型に現れるかを予測するシステム生物学を実践することである。モデル化においては未知パラメータの予測や条件を変えた実行などが必要であるため、E-CellやCADLIVEといった統合開発環境を使わずに、Python言語を用いて独自にモデルを開発した。分子レベルのモデルとしては肝臓の代謝で門脈近くと静脈近くで異なる挙動を示す現象の再現に取り組んだ。また、他の班と協力して、検証が可能な培養実験のメタボローム解析も実施した。肝臓の線維化に関しては、エージェント指向モデルであるSPARKを改良して、肝小葉の中の炎症とコラーゲンの生成をモデル化した。肝臓の細胞が薬剤に暴露された場合に死細胞推移し、マクロファージや星細胞などが炎症性サイトカインの濃度分布に合わせて移動し、コラーゲンが生成されるという一連の現象を再現した。またがんの微小空間における血管新生の現象を再現すべく、シミュレーションのモデルも開発した。腫瘍部にて低酸素状態になると周囲に血管を新たに生成する因子を誘導し、既存の血管から新しい血管を伸ばすが、これらの物理的な特徴と化学的な特徴の両方を満たす数理モデルを開発した。 同時に、培養細胞や臨床検体のメタボローム解析を実施するときに、高感度化や測定対象物質を増やすだけでなく、定量性の再現性を高くすることが重要である。長期的な測定では、測定バッチや様々な試薬や消耗品のロット間の違いなどが影響してくるが、品質制御用の検体を用いてこれらの影響を最小化するアルゴリズムの構築を行った。様々な疾患の臨床検体を長期間測定し、これらの評価も多数実施してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では数理モデルの開発とメタボローム解析の高感度化と定量値の再現性を高める技術開発を中心に実施してきている。数理モデルでは、分子レベルのシミュレーションとして肝臓の代謝のモデル開発を行い、絶食時と摂食時の薬物動態の変動など既存の知見と一致するかという評価まで実施してきた。また、肝線維化の数理モデルも病態の変化に伴いコラーゲンが生成されていく動的な変化を実装してきた。血管新生のモデルに関しては、従来のモデルでは単調に血管が伸びていくだけであったが、実際には途中でいったん縮退の現象が起きる。Ang-1とAng-2の因子を含めることで、こられの縮退現象を再現することもできた。メタボローム解析に関しては技術開発だけでなく、実際に様々な臨床検体を測定した。ある集団で生体の病態に応じて変動する物質を見つけ、更に他の集団でその再現性を確認するなど、再現性の確認も実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発してきた数理モデルに関して、その妥当性を評価できた後は、様々な条件を変更して、実際にモデルを活用して新しい仮説を生み出すシミュレーション実験を実施する必要がある。また、それぞれのモデルにまだ不十分な点もあり、改善の余地がある。代謝モデルでは個々の細胞のモデルが独立してモデル化されているために小葉内での物質の収支がシミュレーションできない。肝線維化のモデルでは、コラーゲンの修復機能が実装できていないために、一方的にコラーゲンが蓄積する。また、これらそれぞれ他の班と協力によって評価試験を実施することも必要である。メタボローム解析に関しても、イオン性代謝物は再現性が高い方法を確立することができたが、脂溶性物質などでも同様の技術開発が課題として残っている。
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