研究領域 | 生体分子工学と低物理エネルギーロジスティクスの融合による次世代非侵襲深部生体操作 |
研究課題/領域番号 |
20H05756
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水野 操 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (10464257)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | タンパク質ヒーター / 振動エネルギー移動 / アンチストークスラマン散乱 / ヘムタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、外部からの光エネルギー入力によって高効率で熱シグナルを生み出す分子ヒーターとして働くタンパク質(タンパク質ヒーター)を開発し、熱シグナルを用いた情報伝達による細胞操作を目指す。 タンパク質ヒーターのプロトタイプとして、ヘムタンパク質に着目する。タンパク質中のヘムは光吸収によって得たエネルギーを瞬間的に余剰振動エネルギーへと変換する。ヘム周囲へ散逸する余剰エネルギーの時空間分布は、トリプトファン残基の振動励起状態のみから発生するアンチストークスラマン散乱をプローブとしてアミノ酸残基のスケールで観測される。 本年度は、αヘリックスが束上になったヘムタンパク質に対し、その周期構造を利用して、余剰エネルギーの時空間分布のヘムからの距離依存性を調べた。その結果、エネルギーフローは古典的な熱拡散モデルに従い、タンパク質の内部は連続媒体として近似できることがわかった。密にパッキングされた構造により、タンパク質内部の原子間接触がエネルギーフローに主要な寄与をなすことを示した。また、タンパク質周囲の水溶媒におよそ10ピコ秒でエネルギーを放出することを明らかにした。 さらに、トリプトファンは高い振動状態密度をもつので、過渡的に生成した非平衡な振動励起状態においても、その振動準位の占有確率が高温平衡状態の占有確率とほぼ一致することを示した。トリプトファン残基のアンチストークスラマン散乱強度は、残基へ流入した余剰エネルギーの量を反映することがわかった。タンパク質分子内の余剰エネルギーの時空間分布のアミノ酸残基スケールの内部温度プローブとして優れた特徴を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究において明らかにした球状ヘムタンパク質におけるエネルギーフロー観測では、タンパク質構造の複雑さから、その分子内熱伝導機構を明確に示すことができなかった。本年度の研究において、よりシンプルな構造であるαヘリックスの周期構造を利用することにより、ヘムからエネルギー分布のプローブとなるトリプトファン残基までの距離依存性のモデル化に成功し、タンパク質分子内熱伝導機構の描像を示すことができた。 さらに、過渡的な振動励起状態にあるトリプトファン残基のアンチストークスラマン散乱光強度が、優れた温度プローブとして利用できることを示し、本研究におけるエネルギーフロー観測が分子内熱伝導機構の解明への基盤を築いた。
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今後の研究の推進方策 |
ヘムタンパク質における光熱エネルギー変換で発生したエネルギーにより、タンパク質ヒーター周辺の加熱を行う。光加熱に対して、タンパク質周辺の水溶媒の加熱能を定量的に計測する手法を確立する。さらに生細胞中でタンパク質ヒーターと温度感受性タンパク質とを共発現によりカップリングすることで、光熱エネルギー変換による細胞操作を目指す。
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