妊娠合併症の約15%は胎盤あるいは子宮内・胚体外組織に原因があるとされる。また10組に1組は不妊治療を行っていることも知られている。質の高い受精卵を子宮内に戻した場合ですら流産する場合は多く、胚のみならず子宮も含めた包括的な理解が重要である。しかしながら、ヒト生体内における着床は妊娠しているかも不明な時期であり、生体で研究することは困難である。本研究の目的は、ブラックボックスである霊長類の着床機構、脱落膜化機構、着床期以降の胚発生を試験管内で再構築し、分子メカニズム明らかにし、霊長類着床後発生学の基盤を構築することである。今日まで着床期以降に関する研究はマウスが主であった。しかしヒトとマウスは、子宮の構造、ホルモン応答性等、差異があり、マウスの知見をヒトに応用することは必ずしも適切ではない。ヒトに近い非ヒト霊長類を用いて胚発生をサポートできる機能的な子宮内膜モデルを構築する。 当該度までにカニクイザルの子宮から子宮を全摘することなく、バイオプシーによって子宮の一部から子宮内膜を取得し、培養するための方法・システムを確立した。この方法を用いて本年は、複数のサンプリングを実施した。子宮内膜増殖期から子宮内膜上皮オルガノイド・間質細胞培養を実施し、カニクイザル子宮内膜上皮オルガノイドの培養、子宮間質細胞の培養方法の改善に取り組んだ。カニクイザルにおいて子宮内膜上皮オルガノイドを継続的に培養できるようになり、ホルモン刺激による遺伝子発現変動の解析を実施することができた。さらには、カニクイ胚が着床した後の子宮内膜を取得し、内膜上皮と間質細胞の脱落膜化の網羅的解析を実施した。子宮内膜上皮・間質・免疫細胞をサンプリングし、解析することでダイナミックに変化する子宮内膜上皮・間質・免疫細胞の遺伝子発現プロファイルを明らかにすることができた。
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