研究領域 | 冬眠生物学~哺乳類の低代謝・低体温による生存戦略 |
研究課題/領域番号 |
20H05768
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
富永 真琴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 教授 (90260041)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | 冬眠 / 休眠 / 温度受容 / 温度感受性TRPチャネル / 視床下部神経 |
研究実績の概要 |
哺乳類冬眠動物は低体温下でも産熱をせず、体温を低く保つことができる。哺乳類冬眠動物は環境温度や自身の体温をどのように感知しているのであろうか?低温を感知する能力が低下しているのか、あるいは、低温を感知しても熱産生につなげない機構が存在するものと推定される。これまでに、冬眠する十三線ジリスのTRPV1は熱による活性化能が減弱していることが報告されている。一方、体温調節中枢である脳視床下部は電気信号に変換された温度情報を受け取るのに加えて、自身で周囲脳温を関していると考えられている。そこで、低温感知における温度感受性TRPチャネルの機能を解析する目的で、冬眠動物であるハムスターの視床下部から温度感受性TRPチャネル遺伝子を単離し(ハムスターTRPA1とマウスTRPA1のアミノ酸相同性は90.1 %)、パッチクランプ法を用いてそれらの温度感受性を解析した。ハムスターTRPA1遺伝子を視床下部から単離した。その前に、マウスTRPA1が温度変化で活性化されないことを確認した。ハムスターTRPA1は、冷刺激では活性化せず、体温近傍の温度(平均36.6±1.2度)で活性化した。化学物質(アリルイソチオシアネート)感受性はあった。ハムスターTRPM2はマウスと同様に体温近傍の温度(平均36.3±1.5度)で活性化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
冬眠動物の温度感受性TRPチャネル、特にTRPA1は体温近傍の温度で活性化して冬眠に関わる可能性が示唆された。一方、マウスの視床下部での温度感知機能とそれに引き続く体温調節への関与が報告されているTRPM2のハムスターオルソログは、非冬眠動物と同じように体温近傍の温度で活性化した。さらに、十三線ジリスとハムスターのTRPM8は低温感受性が低下していると報告されており、それが冬眠動物に冷たさを感じにくくさせていると論じられている。これが本当かどうかも自身の手で確認する必要がある。ハムスターTRPM8の遺伝子クローニングを引き続き進める。加えて、冬眠動物の視床下部TRPA1が冬眠時の体温調節に関与しているらしいことが明らかになったので、どのように関与しているのかを明らかにするのが次のステップだと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
同じ冬眠動物であるハムスターと十三線ジリスでTRPV1の温度感受性が異なるようである。報告された十三線ジリスTRPV1の熱感受性の低下が本当かどうか、シマリスもしくは十三線ジリスのTRPV1遺伝子をクローニングして自身の手でTRPV1の温度感受性を解析する。また、ハムスターTRPM8遺伝子をクローニングして温度感受性を解析することを計画している。また、電気信号に変換して視床下部に到達した温度情報と脳で感知された温度情報はどのように統合されて体温調節へと向かうのか?まず、視床下部神経でのTRPA1発現神経を同定して、その神経の投射をトレースすることを計画している。末梢からの電気信号に変化された温度情報はすばやく中枢神経に伝達されるが、体温変化から生じる脳温の変化はゆっくりとしている。この早さの違う温度情報の統合メカニズムの解明を目指したい。
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