哺乳類冬眠動物は低体温下でも産熱をせず、体温を低く保つことができる。哺乳類冬眠動物は環境温度や自身の体温をどのように感知しているのであろうか?低温を感知する能力が低下しているのか、あるいは、低温を感知しても熱産生につなげない機構が存在するものと推定される。一方、体温調節中枢である脳視床下部は電気信号に変換された温度情報を受け取るのに加えて、自身で周囲脳温を感知していると考えられている。そこで、種々の動物のTRPA1チャネルの温度応答を、パッチクランプ法を用いて解析した。ハムスターTRPA1、ラットTRPA1は少ない回数ではあるが冷刺激に応答したが、マウスTRPA1は冷刺激に応答しなかった(ハムスター:236.0 ± 54.0 pA/pF at +100 mV、ラット:222.4 ± 54.7 pA/pF at +100 mV)。活性化温度閾値は、いずれも約15度であった。ハムスター、マウス、ラット、シマリス、十三線ジリス、ヒトTRPA1はすべて熱刺激に応答した(ハムスター:503.7 ± 107.6 pA/pF at +100 mV、マウス:254.6 ± 64.2 pA/pF at +100 mV、ラット:288.4 ± 51.0 pA/pF at +100 mV、シマリス:121.0 ± 12.0 pA/pF at +100 mV、十三線ジリス:122.5 ± 16.9 pA/pF at +100 mV、ヒト:171.2 ± 18.7 pA/pF at +100 mV)。ハムスターの熱応答が最も大きかった。活性化温度閾値は、ハムスター:37.3 ± 1.0 度、マウス:35.5 ± 1.2 度、ラット:38.3 ± 0.9 度で、ほぼ体温近傍であった。TRPA1の低温感受性に関しては議論があるが、稀にしか観察できないことが分かった。一方、種々のTRPA1が熱刺激感受性を有していることが明らかになった。
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