研究実績の概要 |
哺乳類の冬眠の開始/終了や中途覚醒には時刻依存性があることが古くから知られ、概日時計中枢は低温でもリズムを継続すると推察された。しかしながら冬眠中の時計遺伝子の転写振動の有無に対しては研究室ごとに見解が分かれており、議論が続いている。従来の解析法の問題点は、時間点ごとに異なった個体を用いて解析しており、リズム解析の精度を著しく低下させる可能性が指摘されている。さらに概日時計は何千もの遺伝子のリズムを生み出していることから、冬眠時の概日時計の挙動を理解する上で「時計機能を評価する本質的なリズム指標は何か?」が長らく議論となっていた。本研究では、冬眠動物における振動メカニズムをカルシウムを基軸に明らかにすることを目指して研究行っている。 これまでに恒温恒湿器内に低温計測顕微鏡システムを設置し、低温条件で視交叉上核培養スライスのタイムラプス光計測法を行う方法を確立した。その結果、概日時計中枢の低温において時計遺伝子の転写振動およびカルシウムリズムが停止することや、復温により位相リセットされる低温特性を見いだした(Enoki et al., Biorxiv, 2022)。さらに冬眠動物の中枢時計の概日リズムを解析するため、動物用低温チャンバーを導入して冬眠動物(ハムスター)の冬眠誘導を可能している。研究分担者の金は、休眠導入や各臓器の低温耐性への低温性シグナリングの役割を明らかにすることを目指し研究を行っている。これまでに概日リズムの温度補償性にはNa/Ca交換輸送体を介するカルシウムシグナルが関与することを発見しており、今年度はさらに培養細胞レベルで低温性応答のアッセイ系を確立して論文を発表した(Wang et al., Scientific Reports, 2022)。さらに研究を継続して、阻害剤やノックダウンの影響を評価することで、冬眠実行の起点となる分子の同定を試みている。
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