研究領域 | 細胞内寄生性病原体の自己・非自己の境界を決めるPLAMPの創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05773
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋口 隆生 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (50632098)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | PLAMP / ウイルス学 |
研究実績の概要 |
エンベロープウイルスは、異なる細胞上マイクロドメイン・細胞・組織・個体由来の膜を被って出芽し、次の標的細胞へと侵入するため、ウイルス感染(膜融合による細胞侵入と膜分裂による出芽)に伴って、宿主由来膜成分や因子の持ち込み・持ち出しが起きる。こうしたミクロの変化は、本来宿主由来であるはずの脂質や糖鎖、代謝物質、蛋白質、核酸等の量や質、局在、組成を変動させると考えられる。そこで、本研究は、ウイルス感染(膜融合による細胞侵入と膜分裂による出芽)に伴う宿主側のミクロな変化を宿主自身が如何にして感知するのか、すなわち、ウイルス感染によって生じる宿主由来分子パターン(Pathogen “Life cycle”-Associated Molecular Pattern:PLAMP)を介した病原性制御機構の解明を原子・分子・細胞レベルで明らかにすることを目的に研究を行っている。 本年度も昨年度に引き続き、ウイルス感染によって生じるPLAMPを介した病原性制御機構の解明を目的として、受容体やプロテアーゼとは異なり、ウイルス因子と直接結合しないPLAMP因子が膜融合(自己化)を制御する現象を原子・分子・細胞レベルで解析した。特に新型コロナウイルスの細胞侵入を制御するPLAMP分子の作用機構を、精製蛋白質を用いた相互作用解析や性状解析、ウイルス感染における機能解析、細胞上での発現制御解析を通して詳細に解析した。さらに、ウイルスの細胞侵入を阻害するPLAMPの一つとして抗体によるウイルス感染阻害機構をX線結晶構造解析、および、クライオ電子顕微鏡解析による構造生物学的な手法により詳細に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はウイルス感染によって生じる宿主由来分子パターン(Pathogen “Life cycle”-Associated Molecular Pattern:PLAMP)を介した病原性制御機構の解明を目的として以下の実験項目を行った。 1)受容体やプロテアーゼとは異なり、ウイルス因子と直接結合しない新規PLAMP因子によるコロナウイルス膜融合(自己化)制御機構を、原子・分子・細胞レベルで解析した。具体的には新型コロナウイルスの細胞侵入時に宿主プロテアーゼとして機能するTMPRSS2の機能を抑制する宿主因子Hepatocyte growth factor activator inhibitors (HAI)の精製蛋白質を用いた新型コロナウイルス感染阻害効果を評価・解析し、高い感染阻害能を確認した。また、新型コロナウイルス変異株に幅広く中和能を持つ抗体の作用機序をX線結晶構造解析、および、クライオ電子顕微鏡をもちいた単粒子解析により詳細に解明した。 2)本領域研究で領域内・共同研究者が同定済みPLAMP因子及び相互作用分子の生物物理的解析(熱力学的解析、結合定数解析)と構造解析(X線結晶構造解析、高分解能cryo電子顕微鏡解析)を行うため、大腸菌発現系、昆虫細胞発現系、ヒト培養細胞発現系など、それぞれの標的蛋白質に応じた蛋白質発現系を検討した。また、新規PLAMP因子を探索するための精製蛋白質を用いた実験系を立ち上げ、初期スクリーニングを実施した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も今年度に引き続き、以下の項目について実験を実施し研究を推進する。 1) PLAMP因子によるウイルス膜融合(自己化)制御機構の解析:受容体やプロテアーゼとは異なり、ウイルス因子と直接結合しないPLAMP因子によるウイルス膜融合(自己化)制御機構を、昨年度に引き続き、原子・分子・細胞レベルの解析により解明する。パラミクソウイルスとコロナウイルスに対して、精製蛋白質を用いて感染阻害効果があるかについても評価・解析する。 2) PLAMP発現変化に伴い生じる生命科学的意義を探索:細胞生物学を得意とする本研究班内メンバーと協力して、細胞生物学的変化(cell cycle、輸送、局在解析)の解析を行うことで、PLAMPの生命科学的意義を研究する。 3)PLAMP因子及び相互作用分子の蛋白質科学的解析:本領域研究班内で同定済み、及び、新規同定されたPLAMP因子及び相互作用分子の生物物理的解析(熱力学的解析、結合定数解析)と構造解析(X線結晶構造解析、高分解能cryo電子顕微鏡解析)を行うため、大腸菌発現系、昆虫細胞発現系、ヒト培養細胞発現系など、それぞれの標的蛋白質に応じた蛋白質発現系をさらに最適化し、変異体解析にも取り組むことで、病原体とPLAMPの鬩ぎ合いを原子・分子で解明することを目指す。
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