研究領域 | 細胞運命操作による植物生殖システムのリモデリング |
研究課題/領域番号 |
20H05781
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 准教授 (80724111)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | 多胚性種子 / 助細胞胚乳融合 / プログラム細胞死 / アポミクシス |
研究実績の概要 |
被子植物の卵細胞の隣には、花粉管の誘引を担う助細胞が存在する。シロイヌナズナでは受精後に発達する種子の中で、役目を終えた助細胞は胚乳と細胞融合することで消滅する(助細胞胚乳融合)。ところが、われわれが分離した助細胞の細胞融合が起こらないシロイヌナズナのctl17変異体では、発達中の種子にある助細胞が胚のそばで伸長していた。本研究では受精後のプログラム細胞死の過程を阻害し、かつ胚形成遺伝子を過剰発現されることで、助細胞が胚へと細胞運命転換して多胚種子が得られるのではないかと考えた。 2021年度では多細胞胚形成が誘導される個体の助細胞の単離、および遺伝子発現解析を予定していたが、新型コロナ事由によって延期した。ctl17変異に加えて、助細胞核崩壊の遅延がみられるein2やein3を持ち、体細胞胚形成遺伝子であるRKD1を助細胞で異所発現させる遺伝子をホモに持つ植物の表現型を調べたが、いずれも多胚種子は得られなかった。この結果を受けて、ein3 eil1変異体やctl17変異体についての表現型の解析を集中的に行った。ein3 eil1二重変異体では受精後胚珠の32.1%で助細胞胚乳融合の欠損が見られた。これは約10%しか融合欠損表現型が出現しない野生株に比べると有意に高い頻度であった。これは73%もの融合欠損表現型が観察されるctl17変異体の自家交配後の胚珠と比較すると低い頻度であるが、エチレンシグナルとE3ユビキチンリガーゼをコードするCTL17が、共に同じ経路で助細胞胚乳融合を制御する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
受精後の助細胞プログラム細胞死の阻害とRKD1の過剰発現によって多胚種子の形成を誘導することができなかった点では、細胞の運命決定操作による配偶体の改変という目的の達成が難しくなった。一方で、助細胞の機能に対して多様な影響を与えるein2やein3 eil1などの解析を行い、助細胞胚乳融合の制御についての知見が得られたことは重要な成果と考えている。また、エチレンシグナル因子の変異体とctl17変異体の多重変異体の整備は、助細胞胚乳融合と受精との関連を明らかにする今後の解析に役立つことが期待される。これらの結果を考慮して、全体的なプロジェクトの進行はやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ein3 eil1で観察された助細胞胚乳融合の欠損表現型については、ctl17変異体が示す表現型との遺伝学的な上位性を検討する必要がある。そこで本計画において作製済みのein3 eil1 ctl17三重変異体の雌しべにctl17変異体の花粉を授粉し、受精後の胚珠における助細胞胚乳融合欠損の定量データを得る。 これまでctl17変異によって助細胞胚乳融合が阻害されたときの胚珠の花粉管誘引や助細胞の発達については、形態観察を中心としたデータが蓄積してきた。一方、未受精胚珠の助細胞や中央細胞でmNeonGreen-CTL17を発現することで、中央細胞と助細胞の融合が誘導されるという異所発現実験のデータが得られている。この結果は細胞融合の促進と雌性配偶体の運命決定におけるCTL17の機能の重要性を示唆するが、詳細な解析はまだ行っていない。そこで、助細胞でmNeonGreen-CTL17を発現させた植物の雌しべに野生株の花粉を授粉して花粉管誘引活性を解析する。さらに、精細胞を蛍光タンパク質でラベルしたマーカーラインの花粉を受粉させ、精細胞の放出が起こる7時間後の胚珠を取り出し、共焦点レーザー顕微鏡で観察する。これにより、中央細胞と助細胞の融合が誘導された胚珠の受精の表現型について明らかにする。
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