研究領域 | 翻訳速度調節機構を基盤としたパラメトリック生物学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05783
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土居 雅夫 京都大学, 薬学研究科, 教授 (20432578)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | 体内時計 / 翻訳 |
研究実績の概要 |
翻訳速度調節機構を基盤としたパラメトリック生物学の創成に向け、本計画班では当初の計画に従い、体内時計と翻訳に着目した次の研究を実施した。すなわち、簡便な翻訳速度測定法の新規開発に向けて、次世代シークエンサーを用いたRibo-Seq法に代わる新しい技法の検討をまず行った。その中で我々が今回提案したCRISPR捕獲法は、CRISPR-dCas13の特性を利用して標的mRNAをリボソーム結合状態で精製し、その中に含まれる18S rRNAを定量するという方法である。 この方法は、RNA結合型dCas13という酵素の力を利用するため、ターゲット選択性の向上が見込まれたが、当該初年度に行った私共の検討の結果、生体組織を用いた実用レベルでの翻訳速度定量解析には更なるバックグラウンドノイズの低減が必要であることが分かった。次年度も引き続き改良の検討を加えてゆく予定である。また、これに並行し、体内時計遺伝子の翻訳制御についての研究を進めることができた。我々は生体内で見られる数℃レベルの体温変化が体内時計遺伝子のタンパク質の合成量に変動を与えることを見出し、それをリファレンスとした阻害薬ライブラリースクリーニングによって上流パスウェイを構成する候補因子をいくつか見つけることに成功した。このように、当初の計画どおりの探索研究を実施することができており、翻訳速度制御を介した睡眠・代謝・体内時計のパラメトリック制御機構の解明に向け、今後の研究展開の基礎となる重要な所見を得ることができたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従って翻訳速度制御を介した睡眠・代謝・体内時計のパラメトリック制御機構の解明に向けた調査スクリーニングを行った結果、研究が順調に進み、良好な研究成果をあげることができた。すなわち、体内時計と翻訳制御の分子接点に関する探索研究において、私共は生体内で見られる数℃レベルの漸次的体温変化をパラメトリックな摂動と見なし、この変動の影響を調べたところ、この変動によって体内時計遺伝子のタンパク質の合成量が変化することを見出した。またさらにこの応答をリファレンスポイントとした阻害薬ライブラリーによるスクリーニングを行い、その結果、体内時計と微小温度変化をつなぐ上流のシグナルパスウェイを構成する因子群の候補を見つけることに成功した。またこれに並行し、Ribo-Seq法に代わる簡便な翻訳速度測定法の開発に向けて、CRISPR-dCas13を利用した新たな方法の開発の検討を進めることができた。またさらに、当領域のテクノロジーハブ技術を駆使し、当初の研究計画に従ってRibo-Seqを用いた解析(計画班2岩崎)、翻訳中mRNA 1分子イメージング(計画班3原田・岡部)、神経コネクトイドによる翻訳制御の分子メカニズムの解析(計画班4池内)に向けた班間共同研究も進めることができた。このように、翻訳を基盤としたパラメトリック生物学の創成に向け、研究共同体制ならびに今後の生体リズムと翻訳を中心とした研究展開の土台となる重要な成果を得られたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、当初の研究計画に従って翻訳速度制御を介した睡眠・代謝・体内時計のパラメトリック制御機構の解明に向けた調査スクリーニングを行う。特に、前年度までの研究調査によって良好な結果が得られつつある下記の課題に重点をおいて研究を進める。具体的には、翻訳速度簡便測定法の開発に向けて、我々が今回提案するCRISPR-dCas13捕獲法は酵素の力を利用するためターゲット選択性の向上が見込まれたが、昨年度の検討の結果から生体組織を用いた実用レベルの解析には更なるバックグラウンドノイズの低減を要するが分かったため、今後は溶出液塩濃度の徹底的な検討など新たな抽出条件の検討を行うことによって本法の成否を確定させる。またこの課題に並行し、現在までに良好な成果が得られつつある時計遺伝子の翻訳制御についての研究を重点的に進める。我々は生体内で見られる数℃の体温変動が体内時計遺伝子のタンパク質の合成を変化させることを明らかにし、それをリファレンスとした阻害薬スクリーニングからいくつかの関連因子を見つけることができたので、今後はこの所見を土台に体温と体内時計の新たな分子接点を明らかにしてゆく計画である。引き続き、領域内の連携を活用してのRibo-Seqを用いた解析(計画班2岩崎)、翻訳中mRNA 分子イメージング(計画班3原田・岡部)、神経コネクトイドによる翻訳制御の分子メカニズムの解析(計画班4池内)を当初のプランに沿って行ってゆく計画である。
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