研究領域 | 翻訳速度調節機構を基盤としたパラメトリック生物学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H05784
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩崎 信太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (80611441)
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研究期間 (年度) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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キーワード | Ribosome / Disome / Ribosome profiling / Disome-Seq |
研究実績の概要 |
分子生物学のセントラルドグマは遺伝情報である核酸の情報をアミノ酸という性質の異なる分子配列へ変換する仕組みであるが、その変換速度の鍵を握るのがリボソームが行う翻訳である。リボソームによるコドンの読み取り速度は一般に一定であると考えられがちである。しかし、実は多様な原因によって一時停止するという非常にパラメトリックな動態を示す。これまでにribosomeの停止位置を網羅的・定量的・高感度に検出する手法としてDisome-Seq法を開発してきた。この技術は、渋滞したリボソームがDisome (di-ribosome)を形成することを利用し、リボソーム2つ分の長さのRNaseフットプリントを回収し、次世代シーケンサーによって読み取る手法である (Han et al. Cell Rep 2020)。この手法の確立により、リボソーム一時停止が生じやすいコドンやアミノ酸配列のcontextが明らかになった。それぞれリボソームの伸長反応、終結反応、リサイクリング反応が遅れるような状況でリボソーム渋滞が生じる。また、ゼブラフィッシュとヒト細胞の比較により、進化的保存性も明らかになった。 また、Ribosome一つ分のフットプリントを扱うstandard Ribo-Seq法と合わせ、これまで翻訳を網羅的に解析し、そのパラメトリック制御を明らかにしてきた。例えば、翻訳阻害剤rocaglamide A (Chen et al. Cell Chem Biol 2021)やスプライシング調節剤 (Yoshimoto et al. Cell Chem Biol 2021)による翻訳制御機構を明らかにした。また、その手法の詳細をprotocol論文として発表し (Mito et al. STAR Protoc 2020)、領域内の共同研究の促進のための礎とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞の中ではリボソーム一時停止は積極的解消されると考えられている。これまでに、リボソーム一時停止を解消することが示唆されている因子ABCE1、 ASCC3、 ZNF598、eIF5A、PELO、GCN2等があげられるがその特異性についてはよくわかっていない。そこでsiRNAなどによりそれぞれの因子ノックダウンし、Disome-Seqを行うことで、それぞれの因子によって解消されているリボソーム一時停止の違いに関して検証した。その結果、各因子をノックダウンしたときに生じるdisome位置はそれぞれ大きく異なり、それぞれの因子が対象とするリボソーム一時停止には明確な違いがあることがわかってきた。例えば、ABCE1によって解消されるリボソーム一時停止はNMD標的mRNAのstopコドン上のものであることが明らかになってきた。現在さらに詳細に解析を進め、その特異性の理解を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、因子間で解消の対象としているリボソーム一時停止が異なることが明らかになってきた。その一方で、それぞれが同一の経路で機能しうるのか、相補性はあるのか、といったことが疑問になってくる。たとえば一方の因子がなくなった場合に生じるリボソーム一時停止は、もう一方の因子で解消されうるのか、といったことである。この点を理解するために、上記の因子2つを同時にノックダウンしDisome-Seqを行う予定である。
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