本研究ではリソソームを利用した新たな酸性環境適応機構である「lysosomal exocytosis」の分子機構と、その普遍的な重要性を明らかにすることを目的に定めている。2021年度までに実施していた酸性環境適応を指標としたケミカルスクリーニングと、その後の解析からあるシグナル経路がlysosomal exocytosisおよび酸性環境適応を惹起することを明らかにしてきたが、当該期間の研究としてはこれらの知見を踏まえ、その具体的な分子メカニズムの追究に取り組んだ。まずリガンド刺激後lysosomal exocytosisの活性化が起きるまでの時間経過を調べたところ、刺激後1時間以内とかなり早いタイミングで活性化が生じることが明らかとなり、転写制御を介さない仕組みである可能性が想起された。そこでシグナル伝達に必須のアダプター分子と核外で結合する分子がある可能性を考え、そのような分子を探索するべく、細胞分画後の核外抽出物サンプルを用いた共免疫沈降実験を行った。その結果、いくつかのバンドが刺激により増強されていることがわかり、そして質量分析による同定とその後の検証から、刺激依存的に核外で結合する分子を特定することができた。また、この分子のlysosomal exocytosisおよび酸性環境適応に際する重要性もノックダウン実験により確認している。今後さらに詳細な仕組みを明らかにすることで、この普遍的な酸性環境適応機構の全容と、その重要性、特にがん悪性化における役割を明確にしてゆけると期待される。
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