計画研究
「pH応答生物学の創成」を目的とする中、本研究では過去及び現在大気CO2分圧の増減によって海水中のpHが変化する点に着目してこのようなpH環境の変化に対する海洋生物の応答、適応・進化の観点から評価する。この目的を達成するため本研究では具体的に①高CO2環境を示す特殊海域である活火山島である硫黄鳥島海域およびパラオのニッコー湾海域に着目して、そこに生息する主にサンゴ類による低pH環境に対する生理・生態学的応答を評価すると共になぜ低pH環境の中生き残ることが出来たのかを分子生物学的アプローチから評価、および②過去の大気CO2濃度が急速に変化したPETM期に着目して,この時代の前後の有孔虫の化石種を用いて、これら生物がpH環境の変化に対して過去どのように応答したのかを形態学的アプローチから評価する。本年度は①について高CO2環境を示す硫黄鳥島海域でのフィールド調査を実施すると共に高CO2および対象海域に生息するソフトコーラルに共生する褐虫藻類の組成や多様度を評価した結果、褐虫藻類の組成が対象海域と高CO2海域で有意に異なることが明らかとなった。さらに本海域で今回新たに白亜紀の時代に誕生した生きる化石として知られているアオサンゴ類が発見された。また本種を低pH環境にて飼育した結果、高いpH耐性を有することも明らかとなった。またニッコー湾内に生息するサンゴ(ハナヤサイサンゴ)の成体幼生は共に低pH環境に適応している可能性が示された。②についてはこれまで野外での有孔虫殻の環境による殻密度を調査するため、沖縄島周辺の水深1000ー1200mの複数地点で、有孔虫殻のマイクロX線CT撮影を行い、殻の形状、サイズ、殻密度を計測した。その結果、水深が深まる、つまり炭酸塩溶解度が下がるにつれ、殻密度は増加するという予想とは異なる結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
コロナの感染状況等によって当初予定していたパラオニッコー湾での現地調査を実施することが出来なかった。一方で琉球列島の活火山島、硫黄鳥島沖の高CO2海域での調査を実施した。また以前にニッコー湾で採集していた生物および海水サンプルの分析などを行い論文として報告した。
コロナの感染状況が落ち着き次第、パラオのフィールド調査を実施する。また引き続き硫黄鳥島沖での調査を実施すると共にサンゴの分子生物学的実験を実施する。さらに有孔虫の殻の形状、サイズ、殻密度に対する環境要因の評価を既存のデータも含めて多角的に考察し、論文で発表する計画である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Frontiers of Marine Sciences
巻: 7 ページ: 581160
10.3389/fmars_2020.581160
日本女性科学者の会学術誌
巻: 21 ページ: 41-50
https://harukoku.wixsite.com/kuriharalab