研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
20H05834
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
作田 絵里 長崎大学, 工学研究科, 教授 (80554378)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 光化学 / 錯体化学 / 典型元素 / スピン軌道相互作用 / ドナー・アクセプター相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では金属錯体に対して、ホウ素などの有機典型元素化合物を利用したドナー(D)・アクセプター(A)部位を導入することで、特異な機能発現が可能な有機・無機D-A連結系を創出することを目的とする。動的な構造変化が期待できる化合物群を設計できれば、スピンを含めた励起状態、電荷移動(CT)状態、電荷分離状態の相互変換の制御が可能となる。これらを利用した様々な機能発現を探索することを目指す。 具体的に、以下に示す。 1:金属含有系TADF分子の設計 ねじれ角周りの動的制御が可能な金属含有系TADFを示す錯体の合成を行いその発光特性評価を発光の温度依存性測定から行ったところ2成分の発光種がいることが確認され、TADFが発現していることが明らかになり、また別の金属錯体については溶液状態で金属が解離することが明らかになった。 2:白金錯体にD、A部位を導入した、生体親和性を有するD-A連結分子の合成については、新たにスピロピラン骨格を利用した系を構築すべく、新規スピロピラン分子の合成を行いその光異性化について検討を行った。それを脂質膜へと導入し、電位が変化することが確認された。 3:高効率色素増感太陽電池に向けた金属酸化物/増感色素からなる有機・無機複合系の開発を行うためのジピロメテン骨格を有する金錯体の合成について分子設計を行い、新たな金錯体の合成に着手した。現在は配位子への金(III)導入を行っている。 4:金属錯体の励起状態を制御することを目指し、特徴的な赤外吸収を示す三重結合をD-A連結分子の架橋部分に組み込んだ分子の合成を既報を参考に行った。参照錯体を含むすべての錯体の合成が完了したため、時間分解分光測定を行い既報データと一致することを確認した。また他の直線型錯体の合成を行っているが、DのみAのみは導入可能であるが、異なる配位子を入れる方法を模索しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では金属錯体に対して有機典型元素化合物を利用したドナー(D)・アクセプター(A)部位を導入することで、特異な機能発現が可能な有機・無機D-A連結系を創出する。実際には4つの大きなテーマの元、研究を行っている。本年度は各課題において合成予定であった化合物の合成を行ったが、一部完全に終了するに至らなかったテーマもあった。合成が完了したものについては物性評価や各共同研究先との共同研究の開始に至ることが出来た。順調に進んでいるテーマがある一方で、進展に滞りがあるテーマもあるため、最終年度に向けた課題設定の再検討とバランスの検討を行う必要があると考えている。特に進展が滞っているテーマについては、合成分子の再検討を早急に行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方法を、各課題ごとに記載する。 1:金属含有系TADF分子の設計については、前年度合成した配位子を利用し、より安定に存在する錯体および有機物の合成および詳細な発光測定および励起状態の解析を行う。発光測定に関しては共同研究先に依頼し、固体状態および薄膜状態での寿命および発光スペクトルの温度依存性を測定し、励起エネルギーや活性化エネルギーの算出を行い、計算との整合性やこれまでに合成した化合物群との比較を行う。また、白金錯体については論文投稿する。 2:白金錯体にD、A部位を導入した、生体親和性を有するD-A連結分子の合成については、スピロピラン分子の合成が完了したため、共同研究先と連携して検討を行っていく。また一連のスピロピラン骨格を有する分子群を合成し、その系統的な光異性化の知見を得る。一方で、脂質二分子膜への導入を行い新たな検討も行う予定である。 3:高効率色素増感太陽電池に向けた金属酸化物/増感色素からなる有機・無機複合系の開発については、ジピロメテン骨格を有する新たな配位子の合成および金錯体の合成を試みているが、最終生成物の同定に至っていないため、再検討を行う。金が配位しづらい場合には、新たな合成経路からの検討を試みる。 4:金属錯体の励起状態を有機官能基部位の振動励起状態と相互作用させ励起状態から始まる光物理化学過程を制御する研究については、共同研究先と高速分光測定を赤外光および可視光の両方を利用して測定を行い詳細を検討しているところであるが、いくつか既報と合致しない課題があるため、有機官能基部分を変更した錯体の合成を行う。また現在は金錯体に応用を試みているが、補助配位子の置換反応がうまくいかないことが予想されているため、他の合成ルートを検討していく予定である。 以上の4テーマの研究推進とともに、他の共同研究も精力的に展開し、本研究課題をまとめていく方針である。
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