研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
20H05839
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東 雅大 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20611479)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 動的エキシトン / ドナー・アクセプター相互作用 / 量子化学計算 / 分子動力学シミュレーション / 溶媒効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、独自の高精度理論解析手法を発展させて動的エキシトンの理論を確立することを目的とする。本年度は、A01今堀やA02小堀により系統的に合成および物性測定されたポルフィリン連結フラーレン化合物の電子励起状態や電荷分離状態の解析を行った。この化合物の一重項励起状態のエネルギーは、ベンゾニトリル溶媒中で、ポルフィリンの局所励起状態、フラーレンの局所励起状態、電荷分離状態の順番で低くなることが実験的に知られているが、基底状態の構造を用いるだけでは理論計算で再現できなかった。そこで、化合物の励起状態での構造緩和を考慮して計算を行った。まず、計算コスト削減のため、溶媒を分極連続体モデルを用いて解析したところ、ポルフィリンやフラーレンの局所励起状態のエネルギーは、実験結果と良い一致を示した。しかし、電荷分離状態のエネルギーは、局所励起状態よりも大きくなり、実験結果を再現しなかった。これは、単純な溶媒モデルでは記述が不十分であるためと考えられる。そこで次に、溶媒の構造緩和を分子レベルで考慮可能な分子動力学シミュレーションとQM/MM法を用いて解析した。まず、化合物の電荷分離状態での構造や電荷分布を用いて、分子動力学シミュレーションにより溶媒分布の構造を得た。次に、QM/MM法で電荷分離状態のエネルギーを解析したところ、電荷分離状態のエネルギーが最安定となり、実験結果と一致した。したがって、溶媒の適切な取り扱いが電荷分離状態の記述に重要であることが分かった。さらに、溶媒の熱揺らぎの影響を取り込むため、QM/MM法と分子動力学シミュレーションを効率的に組み合わせたQM/MM RWFE-SCF法を適用したが、現行のプログラムでは計算時間が非常にかかり、解析が困難なことであることが分かった。そこで、計算を高速化するためにプログラムの改良を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの理論研究では、ドナー・アクセプター連結化合物の励起状態や電荷分離状態の静的なエネルギーも再現出来ていなかった。本年度は、まず、その原因の解明に取り組み、化合物と溶媒の構造緩和を適切な記述が重要であることを明らかにした。したがって、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続きポルフィリン連結フラーレン化合物の電子励起状態や電荷分離状態の解析を行う。計算を高速にするためのプログラムの改良を行いつつ、分子を簡略化したモデル分子で計算コストを削減し、解析を効率的に進める。また、一重項励起状態だけでなく、三重項励起状態の解析も進める。。さらに、量子化学反応ダイナミクス計算法の構築を目指して、スピン軌道相互作用を効率的に計算可能な手法の開発を行う。これまで我々は凝縮系中の分子のポテンシャルエネルギー面や遷移双極子モーメントを効率的に計算可能な手法の開発を行ってきており、それを応用してスピン軌道相互作用を計算可能な手法を開発する。また、領域内の共同研究も積極的に進め、理論化学・計算化学の分野から領域の発展に貢献する。
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