研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
20H05843
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三ツ沼 治信 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (20823818)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 動的エキシトン / 光増感分子 / アルカン / sp3C-H結合活性化 / 有機金属 |
研究実績の概要 |
動的エキシトンを利用した光増感分子触媒を活用することで単純アルカンを基質としたsp3C-H結合の有機金属種への変換を基軸とする分子変換を目指すこととした。本研究を達成するためには安定なアルカンのsp3C-H結合を引き抜き、さらに低原子価遷移金属種を生成させることが必要である。この反応系を実現するには、既存触媒では達成困難であった電荷分離状態の寿命と量子収率を実現することが必要である。そこで申請者らが以前の報告で用いたアクリジニウム骨格を有するD・A光増感分子触媒(Acr-Mes)の構造に着目した。この触媒は比較的高い酸化力を有しながらも還元力は十分でない。この分子構造を基盤とし動的エキシトンに基づいて、光増感分子触媒を合理的に分子設計することで酸化力、還元力を最適化し有用な有機合成反応に応用することを目指した。A01班今堀との共同研究により、DFT計算からドナー部位とアクセプター部位の構造変換が酸化、還元電位の調節に効果的であることがわかっており(例えばキノリニウム骨格型光増感分子など)、さらなる最適化によって所望の変換を達成しうる分子設計を行った。いくつかキノリニウム型の光増感分子を合成し、触媒の性能を見極めるべく酸化反応(アルカンのsp3C-H結合引き抜き)と還元反応(低原子価遷移金属種による反応)に付した。現在のところ酸化反応に関しては全く反応が進行しないものの、還元反応に関しては低収率ながら高活性な遷移金属種を生成しているという知見が得られている。今後はドナー部位とアクセプター部位の連結部位周辺に立体障害を導入し、直行性を保つような分子デザインを行っていく予定である。ここで見出された有望な分子に関して、アルカンからの有機チタン種の生成に取り組み、Grignard型反応に適用することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を達成するためには安定なアルカンのsp3C-H結合を引き抜き、さらに低原子価遷移金属種を生成させることが必要である。このような反応系を実現するには、既存触媒では達成困難であった電荷分離状態の寿命と量子収率を実現することが必要である。そこで申請者らが以前の報告で用いてきたアクリジニウム骨格を有するD・A光増感分子触媒(Acr-Mes)の構造に着目した。この触媒は比較的高い酸化力を有しながらも還元力は十分でない。この分子構造を基盤とし動的エキシトンに基づいて、光増感分子触媒を合理的に分子設計することで酸化力、還元力を最適化し有用な有機合成反応に応用することを目指した。特に申請者が開発してきているC-H結合活性化による触媒的Grignard型反応の一般性を改善することとした。A01班今堀との共同研究により、DFT計算からドナー部位とアクセプター部位の構造変換が酸化、還元電位の調節に効果的であることがわかっており(例えばキノリニウム骨格型光増感分子など)、さらなる最適化によって所望の変換を達成しうる分子設計を行った。いくつかキノリニウム型の光増感分子を合成し、触媒の性能を見極めるべく酸化反応(アルカンのsp3C-H結合引き抜き)と還元反応(低原子価遷移金属種による反応)に付した。現在のところ酸化反応に関しては全く反応が進行しないものの、還元反応に関しては低収率ながら高活性な遷移金属種を生成しているという知見が得られた。合成したキノリニウム型の光増感分子の励起状態がどうなっているかを調べるべくA02班の小堀と共同し、時間分解EPR測定を行った。これによると、励起状態ではドナー部位とアクセプター部位が平面となり電荷分離状態をとりにくいことが示唆された。この知見を基に合成を進めることで所望の変換を達成する分子設計が可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
合成したキノリニウム型の光増感分子の電荷分離状態がどうなっているかを調べるべくA02班の小堀と共同し、時間分解EPR測定を行った。これによると、励起状態ではドナー部位とアクセプター部位が平面となり電荷分離状態をとりにくいことが示唆された。そこで今後はドナー部位とアクセプター部位の連結部位周辺に立体障害を導入し、直行性を保つような分子デザインを行っていく予定である。この光増感分子触媒を用い、電荷分離状態を時間分解EPR測定により確認する。ここで見出された有望な分子に関しては①酸化反応としてアルカンのsp3C-H結合引き抜きを経由するラジカル反応を②還元反応では低原子価遷移金属種による反応を行う予定である。①としては具体的にはクロロラジカルのような高活性なラジカル種を触媒種として設定し、シクロヘキサンのような単純アルカンのC-H官能基化を行う。②としては低原子価遷移金属としてチタン錯体を設定し、ケトンのような求電子性の低い試薬との付加反応に付すことを考えている。この両方を進行させることを確認したうえで、アルカンからの有機チタン種の生成に取り組み、Grignard型反応に適用することを目指す。
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