研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
20H05847
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
相川 祐理 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40324909)
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研究分担者 |
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
古家 健次 国立天文台, 科学研究部, 特任助教 (80783711)
高柳 敏幸 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90354894)
吉田 直紀 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90377961)
山崎 祥平 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (90570177)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | アストロケミストリー / リングポリマー分子動力学 / 経路積分法 / 重水素濃縮 / 反応性脱離 / 原始惑星系円盤 / 原始星コア |
研究実績の概要 |
ミクロチームは、リングポリマー分子動力学を使った化学反応の研究を重点的に行った。リングポリマー分子動力学は量子経路積分法を発展させた方法で、ゼロ点振動やトンネル効果などの核の量子性を取り込んで実時間ダイナミクスが計算できることが特徴である。いくつかの比較的簡単な化学反応に応用し、他の計算方法の結果や実験結果と比較して、この方法が十分実用に耐えることを検証した。しかし、計算時間が極めてかかる方法であるため、解析的なポテンシャルエネルギー曲面を使わないと統計的なトラジェクトリー数を得ることができないことも分かった。 マクロチームは、反応性脱離に着目した研究を行った。近年、低温な分子雲の分子組成を説明するには、固体表面に吸着する分子が非熱的に気相へと脱離するプロセスが必要であることが分かってきた。反応性脱離は非熱的脱離の代表例であるが、その効率は実験的にも理論的にもよくわかっていない。反応性脱離の室内実験を動的モンテカルロ法により模擬する数値計算コードを開発した。 原始惑星系円盤について、高空間分解能輝線観測大型プロジェクトに参画し、観測データ解析を行うとともに、同位体分別を含む円盤化学モデルの構築を行った。また、円盤の光蒸発過程の輻射輸送流体力学シミュレーションを行い、円盤の消失時間とその中心星光度依存性を求めた。円盤ガス中における水素分子の生成や光解離などの非平衡反応を追い、炭素イオンや酸素原子による放射冷却を陽に取り入れたシミュレーションにより、円盤内の温度構造やその時間進化を明らかにした。 観測班のターゲットとなっている原始星コアについても流体計算を行った。具体的には原始惑星系円盤と新たに降着してきたガスを識別するため新変数(化学場)を導入した。これにより、落下してきたガスが衝突すると、原始惑星系円盤の一部がはぎ取られることを確認できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パンデミックの影響で当初予定していた研究員雇用を年度内に開始できなかった。そのため研究員が主に行う予定であった、反応ネットワークモデルのキーリアクションの選定は遅れた。しかし一方で、固相と気相全体の相互作用に影響する反応性脱離について、総括班メンバーでもある実験グループと共同で研究を進めることができた。また、原始惑星系円盤の高空間分解能輝線観測大型プロジェクトでのデータ解析が進み国内外の研究会で成果発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で、計算時間のかかるリングポリマー分子動力学を多くの化学反応に適用するには、精度のよいかつグローバルなポテンシャルエネルギー曲面を開発する必要があることがわかった。そこで、機械学習を応用したポテンシャルエネルギー曲面作成するプロジェクトを立ち上げる。 反応性脱離については、開発したモンテカルロコードを用いた数値計算を行い、 既に実験のなされているHS + H -> H2S と PH2 + H -> PH3の2つの反応について反応一回当たりに生成物が脱離する確率を定量的に求める。 原始惑星系円盤については、高空間分解能輝線観測大型プロジェクトの結果をまとめた論文を投稿準備中である。4月には来期のALMA観測提案公募があるので、観測結果および理論モデル計算をふまえ、追加観測の提案も行う。円盤の光蒸発については、2次元数値シミュレーションから得られたガス流失率分布(中心星からの距離依存性)を用いて、円盤長期進化の計算を行う。粘性降着など、光蒸発以外の重要な効果も同時に考慮する。 原始星コアについては、観測でガス降着が極めて非対称な形態を示す天体が見つかっている。数値シミュレーションと観測される分子輝線を比較することにより、その3次元構造を再現するモデルを作成する。
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