研究領域 | ダークマターの正体は何か?- 広大なディスカバリースペースの網羅的研究 |
研究課題/領域番号 |
20H05855
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 昌広 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (40374889)
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研究分担者 |
田村 直之 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (20450182)
石垣 美歩 国立天文台, ハワイ観測所, 助教 (30583611)
砂山 朋美 名古屋大学, 理学研究科, 学振特別研究員(PD) (30794010)
高遠 徳尚 国立天文台, ハワイ観測所, 教授 (50261152)
高橋 龍一 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (60413960)
岡本 桜子 国立天文台, ハワイ観測所, 助教 (80823377)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | ダークマター / アクシオン / 原始ブラックホール / 矮小銀河 |
研究実績の概要 |
すばる超広視野多天体分光器Prime Focus Spectrograph (PFS)は、広い視野に渡り、約2400個の天体を同時に分光観測ができる極めてユニー クな装置である。天の川銀河に存在する星々は、重力場に従い固有運動をしているが、その視線方向の速度は分光観測によってのみ測定できる。逆に、多数の星の空間分布および視線速度を測定することにより、星々の運動が従う重力場を復元することが可能になる。我々の天の川銀河のハロ ー領域 (外縁部) に存在する、ダークマターが卓越する矮小銀河のメンバー星の個々のすばるPFS分光観測から視線方向の速度を測定し、重力場、つまりダークマターの空間分布を復元する。本研究の目的は、(1) このPFS観測と冷たいダークマターモデルの予言と定量的に比較し、徹底的に検証する。 (2)異なるダークマターの模型、例えば超軽量のアクシオンモデル、などを検証する、ことである。PFS共同研究は、日本、米国、台湾、ドイツ、フランス、ブラジル、中国の研究者からなる国際共同研究で進めている。 2020年度は、本計画研究の11月の内定後に速やかにグループミーティングを行い、研究の目的、タイムラインを相談し、適切な計画を立てた。特に、コロナ禍の影響で出張などができない状況下にあったので、ミーティング、会議等については大幅な変更が必要になった。その厳しい状況下でも、本研究グループ、プリンストン大学、ジョンズホプキンス大学の研究者と協力して、すばるPFS分光器の購入、開発を行うことができた。また、共同研究会議についてもオンラインで行い、PFS観測の計画、解析手法の検討・開発を進めることができた。理論的研究成果としては、ダークマター候補の一つである原始ブラックホールの研究を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で、科研費のスケジュール(内定)が遅れたが、入念な準備を行っていたため、プリンストン大学、ジョンズホプキンス大学の研究者とも協力して、すばるPFSの分光器クライオスタット(一式)を購入することができた。出張等での会議、研究打ち合わせを当初予定していたが、コロナ禍のために全てオンラインでの会議で対応した。日本、アジア、米国、ヨーロッパの研究者が参加する国際共同研究であり、会議の時間は日本時間夜(午後10時)あるいは朝(午前7時)の開始などで対応する必要があったが、会議運営の工夫もあり、スムーズに共同研究を進めることができた。 2021年2月には学術変革領域研究全体での立ち上げシンポジウムをオンライン会議で開催したが、200名を超える参加者があった。領域の目標、また領域内での本計画研究の目的、タイムラインを共有することができ、大きな収穫があったと言える。2020年度の主な研究成果としては、ダークマターの有力候補である原始ブラックホールを生成するインフレーション模型を提案し、すばる望遠鏡による重力マイクロレンズ効果の観測で検証できることを示した (Kusenko et al., PRL, 2020)。また、本研究グループが中心となり、宇宙論シミュレーションの大規模データを用い、銀河のクラスタリング統計量を高精度かつ高速に計算できるエミュレータ「Dark Emulator」を全世界に公開した( https://darkquestcosmology.github.io)。このDark Emulatorは、一つの宇宙論モデルに対して、スーパーコンピュータを使っても数日かかる計算から得られる物理量を1秒程度で計算することが可能になる。つまり、10万倍以上の計算時間の短縮に相当する。コミュニティに対する大きな貢献と言える。以上の理由で、本研究は概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
すばるPFSプロジェクトについては、分光器開発については、引き続きプリンストン大学、ジョンズホプキンス大学と協力して開発を進める。また、国立天文台ハワイ観測所の研究者と協力して、2021年度から本格的に開始するPFSの試験観測を行い、分光器の各サブシステムの動作評価、データの検証を注意深く行う。 サイエンスの準研究については、PFSの共同研究者と協力して、観測の戦略、タイムラインを注意深く検討し、またPFSデータの物理解析のための開発パイプラインの開発を行う。特に、バリオンに対してダークマターが卓越する矮小銀河は、ダークマターの性質を探ることを可能にする絶好の観測対象であるが、PFSによる矮小銀河の観測立案、戦略を入念に練っていく。これに並行して、例えばアクシオンなどのダークマター模型が予言する矮小銀河の重力ポテンシャルの特性の理論研究を進め、PFSデータが得られた場合に速やかにダークマターの研究成果を出せるような準備研究を整備しておく。 また、宇宙の大規模構造の宇宙論の研究については、上述のDark Emulatorを活用し、銀河クラスタリング統計量からダークマターの一部を担うニュートリノの質量を測定するための物理解析手法を開発する。特に、既存のSloan Digital Sky Surveyなどの観測データに開発した手法を適用し、ニュートリノ質量の制限する。これらの実際のデータを用いた研究は、すばるPFSの研究に向けた準備研究とも言える。
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