研究領域 | ダークマターの正体は何か?- 広大なディスカバリースペースの網羅的研究 |
研究課題/領域番号 |
20H05859
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 英一郎 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 客員上級科学研究員 (00750316)
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研究分担者 |
白石 希典 公立諏訪東京理科大学, 共通・マネジメント教育センター, 講師 (00803446)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 宇宙マイクロ波背景放射 / 偏光 / ダークマター / アクシオン / 複屈折効果 |
研究実績の概要 |
パリティ対称性を破るアクシオン場のようなダークマターが光子と相互作用を行うと、光子の偏光面は回転する。これは「宇宙複屈折効果」と呼ばれている。この効果により宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光パターンは変化し、EモードとBモード偏光の相互相関(EB相関)が生じる。これは、パリティ対称性を保存する標準的な宇宙モデルでは得られないため、パリティ対称性を破るダークマター探査を可能にする。前年度までの研究では、2020年に発表された欧州宇宙機関(ESA)のCMB観測衛星Planckの高周波検出器(HFI)の最新データを用いてEB相関を測定し、パリティ対称性の破れの兆候を3.3シグマの統計的有意差で観測した。本年度は、この測定の精度を高めるべく、HFIに加えてPlanckの低周波検出器(LFI)とNASAのCMB観測衛星WMAPのデータを同時解析した。その結果、統計的有意差は3.6シグマまで上昇した。100GHz以上の高周波数の光子に感度のあるHFIデータを用いた時は、測定されたEB相関の信号は宇宙複屈折効果ではなく、銀河系の星間ダストの偏光である可能性が指摘されたが、100GHz以下に感度のあるLFIやWMAPの低周波数のデータではダストの影響は無視できる。従って、観測された信号は宇宙複屈折効果で説明できる可能性が高まり、新しい物理の兆候ではないかと注目されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パリティ対称性を破る宇宙複屈折効果が確認されれば、標準的な宇宙モデルを超える新しい物理現象の発見となる。そのような結果は大きなインパクトを持つため、本計画研究で初めてその兆候が捉えられたEB相関の信号が、本当に宇宙複屈折効果によるものかどうかを判定するのは重要である。本年度の研究では、これまでの解析でまだ使っていなかったPlanckのLFIの最新データと、Planck以前のCMB観測衛星であるWMAPのデータのEB相関を解析に加えることで、観測された信号の起源を精査した。その結果、さらに統計的に有意な結果を得た。これは予想を大きく上回る成果であり、本計画研究は、当初計画していた以上のペースで進展している。
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今後の研究の推進方策 |
観測されたEB相関の信号を、パリティ対称性を破るアクシオン場のようなダークマターとCMB光子との相互作用で説明する際、これまで広く使われてきたEB相関の理論予言は不十分な近似に基づいていたことがわかった。そこで今後は、ボルツマン方程式をきちんと解いて得た正しい理論予言を測定結果と比較し、EB相関を説明するアクシオン場の背後にある物理現象を探る予定である。また、将来的な観測により、宇宙の再結合期(赤方偏移で約1090)で生成されたCMBの偏光だけでなく、赤方偏移の小さな近傍宇宙の電離ガスから生成された新しいCMB偏光のEB相関が測定可能か、そしてそれがアクシオン場の物理にどのような情報をもたらすのかを調べる予定である。
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