研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
20H05863
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
忍久保 洋 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50281100)
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研究分担者 |
前田 大光 立命館大学, 生命科学部, 教授 (80388115)
畠山 琢次 京都大学, 理学研究科, 教授 (90432319)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 反芳香族 / 積層 / 近接化 / 共役 / π電子系 / ヘテロ原子 / イオン間相互作用 |
研究実績の概要 |
ノルコロールニッケル錯体の積層距離を低減するため、ノルコロールのπ電子密度を低下させることを目論んだ。そこで、ノルコロールの周辺置換基として電子求引基であるペンタフルオロフェニル基を導入したところ、2つのノルコロールの会合定数が格段に向上することを見いだした。さらに、結晶中ではπ平面どうしが完全に対面した積層二量体構造を形成することを見いだした。一般的に、π電子間には斥力が働くために対面積層構造をとることはまれである。この対面積層二量体の芳香族性を評価するため固体NMRを測定したところ、芳香族領域にシグナルが観測された。理論計算からもこの対面積層二量体が明確な芳香族性を示すことが支持された。対面積層二量体の分子軌道を理論計算によって解析したところ、ねじれて積層した弱い三次元芳香族性を示す二量体とは分子軌道の相互作用の様式が大きく異なっていることが明らかになった。 荷電反芳香族性π電子系の骨格精査を検討し、周辺に長鎖アルコキシ鎖を有するノルコロールNi(II)錯体を合成し、特定の鎖長においてカラムナー構造に基づく液晶中間相の形成を明らかにした。カラムナー構造の構成ユニットがノルコロール積層3量体であることを分光手法およびMDシミュレーションによって解明し、積層3量体の積層が周辺置換基のvan der Waals相互作用によって保持されることから、ノルコロール間の近接積層を基盤とした従来にはない集合化形態を有するソフトマテリアルの形成を実現した。さらに、One-shotホウ素化とOne-potホウ素化を組み合わせた,逐次的多重ホウ素化反応の開発に成功し,含ホウ素π共役化合物の新たな化学空間へのアクセスを可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
結晶中で反芳香族分子の完全な対面近接積層を実現し、この状態で明確な芳香族性が発現することを実測や理論計算から明らかにすることができた。分子間で電子共役が実現していることを示す結果であると考えられる。 さらに、電反芳香族性π電子系の骨格精査の過程で得られた周辺修飾ノルコロールからなる液晶中間相が、反芳香族近接積層に基づく特異な配列形態を構築することを実験的・理論的に明らかにした。また、ホウ素導入と環化反応を同時に行うπ拡張ボラフェナレンの合成法を開発した。ボラフェナレンは環状12π電子系を有しており,新たな含ヘテロ反芳香族化合物として期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
電子求引基であるペンタフルオロフェニル基を反芳香族分子であるノルコロールニッケル錯体に導入すると、結晶中では2分子のノルコロールがほぼ完全に対面して近接積層することを前年度の研究から明らかにしている。本年度はこの化合物の溶液および固体物性についてさらに詳細に調査し、三次元芳香族性の発現のメカニズムを明らかにする。さらに、放射光を用いた精密電子密度解析を行い、2つのノルコロールの間の分子空隙における電子の存在を捉えることを目標に研究をすすめる。また、密度汎関数法により計算による分子空隙における電子密度解析も行う。 前年度に合成に成功した拡張π共役ボラフェナレンの高密度集積化と半導体特性の評価を行う。また、ラジカルアニオンの一次元積層による有機導電体としての応用を進める。さらに、荷電反芳香族性π電子系を継続して設計・合成し、相反する電荷間での静電力を利用した高密度共役イオンペアの形成を検討し、近接積層に起因した物性の発現をめざす。
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