研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
20H05864
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
深澤 愛子 京都大学, 高等研究院, 教授 (70432234)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | π共役 / 非ベンゼン系共役電子系 / 分子間相互作用 / 電子受容性π電子系 / 反芳香族 / 共役オリゴマー / 多段階酸化還元系 |
研究実績の概要 |
2020年度は,分子間空隙の極限的な縮小と電子局在性の制御を両立するために最適な新奇π電子系を創出することを目的に,独自に設計した標的分子の合成経路の開拓に取り組んだ.具体的な成果は以下の2点に集約される.
1) 高密度共役のための新たな基本骨格として,チオフェン縮環型1,4-ジアザペンタレン(TAP)の合成に成功した.本化合物は,反芳香族性をもつ非交互炭化水素ペンタレンのC=C結合の一部をC=N結合に置き換えた電子受容性骨格を有しており,剛直な4環式平面骨格の外周部に C-H 結合を4つしかもたないため,高密度な積層に極めて有利な特徴を備えている.実際に,結晶構造解析により,TAPが面間距離3.3オングストロームを下回る密な積層構造を形成することを明らかにした.また,SAPT解析による検証の結果,高密度な積層構造の形成には,C=N結合の導入による交換反発力の軽減が重要であることを確認した.
2) ペンタフルバレン同士が直接連結したπ共役オリゴマーの合成法の確立に取り組み,ベンゼン縮環部位をもつペンタフルバレンの二量体,三量体を微量ながら得ることに成功した.電気化学測定の結果,二量体は4段階の可逆な酸化還元過程を示し,少なくとも4電子還元体まで安定に存在し得ることが実験的に確認された.また,量子化学計算により,1電子還元体のラジカルアニオンにおいてはスピン・電子密度が主鎖方向にわたって非局在化し,結合交替も極めて小さくなることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初に,高密度共役の実現と電子質量制御を両立するための基本指針として, (1) 非ベンゼン系共役電子系と多彩な元素の活用によるC-H結合の軽減,(2)電子受容性骨格による交換反発の軽減,(3)分子骨格の適切な選択による電子質量のデザイン,という3つの分子設計のコンセプトを計画した.今年度は,チオフェン縮環1,4-ジアザペンタレンに関する研究を通して,C-H結合の数の低減と電子受容性の向上が,π電子系同士の近接積層の実現に確かに有効であることを実証することができ,本成果はすでに論文投稿準備の最終段階にある.また,ペンタフルバレン多量体の研究においては,大量合成法の開拓という点では依然課題が残るが,軽い電子をもつの新奇な基本骨格としての潜在性を見出しつつある.さらに,本研究の成果は,未発表結果も含めて領域内のオンライン会議で迅速に共有しており,領域内研究者との活発な意見交換をもとに,既にA03班との共同研究の取り組みも始まっている.以上の状況から,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度中に論文投稿へ至らなかった進行中の研究を詰めると共に,以下の研究に取り組む. 1) 軽い電子をもつ高密度共役系の候補として,チオフェンやピラジンを縮環部位にもつペンタフルバレンオリゴマーの合成法の開拓に取り組み,高密度共役により適したπ共役オリゴマーの実現を目指す.また,その合成検討の過程で新奇な高密度共役系の候補化合物が予期せず得られており,これについても検討を進める. 2) 重い電子をもつ高密度共役系の候補として,芳香環縮環型ペンタフルバレンやチオラクトンを用い,アルカリ金属を用いた還元により,アニオンラジカルやジアニオン種の単離,構造解析を検討し,特に開殻種の空間配置や充填密度に対して,対カチオンとなるアルカリ金属のサイズが及ぼす効果を検証する. 3) 2020年度に得られたチオフェン縮環ジアザペンタレンやベンゼン縮環型ペンタフルバレン多量体について,測定に必要な試料量を合成し, A03-1 関らとTRMC法による伝導度測定,竹延らとFET素子によるキャリア移動度評価や熱電特性評価,熊井らと圧力印加条件での精密構造解析へと順次速やかに展開する.
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