研究領域 | 超秩序構造が創造する物性科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05881
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
小原 真司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 独立研究者 (90360833)
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研究分担者 |
林 好一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20283632)
小野寺 陽平 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (20531031)
木村 耕治 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20772875)
田尻 寛男 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (70360831)
平田 秋彦 早稲田大学, 理工学術院, 教授(任期付) (90350488)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 放射光X線回折・散乱 / 蛍光X線ホログラフィー / 中性子回折 / 電子回折 / マイクロビーム |
研究実績の概要 |
放射光による超秩序構造の解明を加速するエンジンとして蛍光X線ホログラフィー(XFH)および異常X線散乱(AXS)の計測が可能な複合実験装置の開発を進めた。XFH、AXS両主法ともに測定精度の向上、測定スループットの向上、対象試料の拡大の観点から装置デザインを検討し基本機能を備えた装置を完成させた。 A01-1, A01-2班と連携をとり、比較的単純な構造の物質については物性発現機構の理解に繋がる添加元素の超秩序構造を明らかにした。さらに、微小試料測定に向けた技術開発を行い、多結晶中の結晶粒の測定やダイヤモンドアンビルセルによる高圧測定へと展開した。 ガラスセラミック材料であるZr添加Li2O-SiO2に高エネルギーX線散乱及び中性子散乱を適用した。得られた実験データから逆モンテカルロ法によって3次元モデルを導出し、ZrやLiが作る超秩序構造を明らかにした。さらに、触媒材料であるAg添加B2O3ガラスの高エネルギーX線散乱実験を実施し、質の高いデータを得ている。 酸化物ガラスを主とした非晶質材料の放射光・中性子回折実験を行い、特にLi含有ガラスでは同位体置換中性子回折法、Rb含有ガラスではAXS法により、それぞれの元素に選択的な構造データを測定した。また、複雑な組成の低融点ガラスに関しては全構成元素に敏感な実験データを用いた構造モデリングを実施した。 アモルファス物質の短距離~中距離秩序構造を明らかにするために、サブナノメートルまで絞った電子線を用いたÅビーム電子回折(ABED)法と関連するシミュレーション解析手法の検討を行っている。今年度は、電子線の集束角やマルチスライス計算を組み込んだ局所RMC法の開発と電子回折パターンの自動照合ソフトの開発を主に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで研究は概ね計画通り進行している。2022年2月に我々が設計・開発したXFH・AXS複合実験装置が大型放射光施設SPring-8に納入された。(1)検出器系の三連装化、(2)集光ビーム生成、(3)χサークルの追加オプションについても性能評価を待つ段階まで調整が進んでいる。 ゼオライトについては大きな単結晶が得られる天然試料の準備を進めた。生体試料においてはホログラムパターンから構造情報を抽出する解析手順の検討を進めた。さらに、微小試料測定技術開発に関して、結晶粒の測定や高圧測定の目途を立てることができた。 Zr添加Li2O-SiO2の解析は順調に進んでおり一部は既に論文化した。中性子散乱実験の結果を合わせたモデリングもほぼ完了しており論文を執筆中である。Ag添加B2O3ガラスについては、実験データは得られており、RMCによるモデリングに取り組んでいるところである。また、Rb吸収端近傍でのAXSデータから差分構造因子の導出に成功した。一方、Liの同位体置換中性子回折データについては各同位体濃縮試料の全構造因子の導出が完了し、現在、差分構造因子の導出を試みている。低融点ガラスの構造モデリングもすべての実験データの再現に成功している。 電子線の集束角やマルチスライス計算を組み込んだ局所RMC法の開発に関しては当初の予定よりも早く完了し、既に金属ガラスの局所構造に関する計算を現在進めている。また、電子回折パターンの自動照合ソフトについてはプロトタイプが完成したところである。 A02-2班と連携で国際宇宙ステーションきぼうでの酸化物融体の熱物性測定を行い、粘性データの取得に成功した。成果報告に関しては、論文執筆においてA03班との連携の成果を発表することができた。また、プレス発表も行い、新聞記事として成果が取り上げられた。
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今後の研究の推進方策 |
XFH・AXS複合実験装置は、本装置を活用する利用実験課題が複数、SPring-8で採択されており、まずは同装置を用いた標準的な計測環境を整備する。その計測環境にて超秩序構造の解明研究を推進する。並行して、同装置の追加オプションの性能評価を行い、順次実実験に展開していく。 XFHに関してはA01-1, A01-2班との連携をさらに強化し、改良を加えた実験条件や解析方法を用いて、ゼオライトやフェレドキシンの構造を蛍光X線ホログラフィーによって調べる。さらに、昨年度開発した微小試料測定技術を応用し、多結晶中の結晶粒のホログラム観測や圧力印加による構造変化の観測に挑戦する。 Ag添加B2O3ガラスのモデリングについて、AgやB周りの配位環境の多様性を考慮して、組み込む拘束条件や初期原子配置を注意深く設定し、物理的に妥当な3次元構造を導出する。また、本領域で新しく建設した専用装置の立ち上げを行い、低濃度試料や複雑な構造を有する試料の解析へと展開する。さらに同位体置換中性子回折法とAXS法を用いて様々な超秩序構造物質の測定・構造解析を実施していく。特に、昨年度に本研究予算にて整備された新型計測装置を用いて、これまでは測定が困難であったZnより原子番号の小さい遷移金属元素のAXS測定に挑戦する予定である。 現在開発しているRMC法やパターンの自動照合ソフトについては、検討課題がいまだ多く残されているため、少しでも改善できるようA03-2班と連携をとりつつ検討を続けていく。それと並行して、X線回折や中性子回折と本手法を相補利用することで、より精度の高いガラス構造モデルの作成を試みる予定である。 A01-1, A01-2, A-02-2班と連携で酸化物材料の構造解析を行い論文執筆に着手する。A03-2班志賀との連携によりトポロジカル解析手法の開発も行い論文執筆に着手する。
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