研究領域 | 散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05887
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
粟辻 安浩 京都工芸繊維大学, 電気電子工学系, 教授 (80293984)
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研究分担者 |
角江 崇 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (40634580)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 光工学・光量子科学 / 超高速動画 / ホログラフィー / フェムト秒テクノロジー / 高速度イメージング |
研究実績の概要 |
散乱体中を伝播するフェムト秒光パルスを動画像として記録,再生するシステムを設計,構築し,そのシステムの動作を実験的に確認した. 構築したシステムは,次の流れで動作する.時間幅35 fsの光パルスを発する超短パルスレーザーをホログラムの記録光源として用いる.この光パルスを2分し,一方を散乱体に導入する.導入された超短光パルスはそのエネルギーの一部を散乱させながら,その散乱体中を伝播する.散乱体からの散乱光を物体光パルスとして設定した.2分した他方の光を参照光パルスとし,撮像素子に斜入射するように光学系を調整する.この2光パルスが干渉して形成するホログラムを撮像素子で記録する.記録画像の一部をサブホログラムとして切り出す.サブホログラムに対して光の回折を計算することで,散乱体中を伝播する光のある瞬間の像が再生される.サブホログラムの切出し位置を,撮像素子を参照光パルスが横切る方向に順次移動させて,同様に像再生する.得られる再生像群を順番に表示することで,散乱体を伝播する光の動画像が得られる.空間光変調器を導入して散乱の影響を補正する光学系も検討した.また,得られる動画像を予想するための計算機シミュレーションシステムも作成した. 構築システムは,外光や外乱などの振動があると干渉縞を安定して記録できない.そこで,暗室を作製し,この中に光学除振台を設置し,この除振台上でシステムを構築した.光源のレーザーから発する光パルスのエネルギーは時間的にも空間的にも非常に高い.そのため通常の実験室では,ホログラム記録に用いる光学素子や,このレーザー自体も容易に損傷する.この問題を避けるために,クリーンブースを構築した.さらに,このレーザーは温度や湿度が変動すると,フェムト秒光パルスを安定して発しない.その問題を解決するために,空調と除湿器により温度,湿度を安定して保てるように実験室を改良した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題である伝播するフェムト秒光パルスが散乱体中を伝播する様子の動画像記録と観察の基本光学系の設計と構築を行えた.また,フェムト秒光パルスが空間中を伝播する様子を記録する場合に得られる動画像を予想するための計算機シミュレーションシステムを作成しその有効性を確認した. 以上の成果が得られていることにより,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に開発した散乱体中を伝播する光の動画像記録システムに対して拡大光学系を導入し,微小領域を伝播する光の動画像記録可能なシステムの構成を検討する.また,このシステムで得られる像の特性を解析するための計算機シミュレーションシステムを構築する.このシステムを用いて,伝播する光の拡大像がどの程度歪みが生じるかを評価し,動画像として記録,観察する際に,問題無い程度の歪みを明らかにする. また,微小領域を伝播する光の動画像記録可能な実験システムを設計,構築する.このシステムを用いて,微小領域を伝播する光の動画像記録実験を行い,得られる動画像の歪みを調べ,計算機シミュレーションで得られる結果と比較し,構築した計算機シミュレーションシステムの動作を評価する. 次に,得られる動画像の歪みを補正する方法を検討する.まず,補正しない場合に得られる像を記録し,この像と所望の像との差異を明らかにする.この差異を補正するための波面を計算により求めて,ホログラムを記録する際に物体光あるいは参照光に,この差異を補正するための波面を付加する.この波面は,計算機合成ホログラムを用いて発生させる.この計算機合成ホログラムの設計方法を検討する.また,空間光変調素子を用いてこの計算機合成ホログラムを表示することで波面補正を実現する方法を検討する. さらに,伝播する光の動画像を,より長時間記録するための技術とその実現方法を検討し,時空間的により広範囲にわたる光の伝播の様子を記録可能にする.また,検討した方法を実現するシステムを設計,構築し,その能力を実験的に評価する. ホログラフィーの記録について高度な知識を持つ(株)久保田ホログラム工房 久保田敏弘博士,神戸大学 的場修教授,産業技術総合研究所 夏鵬研究員,日本学術振興会 井上智好特別研究員と議論ならびに助言を受けながら研究を進める.
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