計画研究
我々は、波動の送信点、散乱点、受信点によって表現される散乱場が満たされるべき方程式の導出に成功し、さらに領域端において得られる観測結果、境界条件から導かれる解について、時間と空間の極限操作を行うことで、領域内部の構造を映像化する理論を確立した。本研究では、これまで媒質が有する誘電分散の効果、多重散乱の効果を取り入れた映像化理論の構築の成功してきた。さらに、現実の問題では、送信機、受信機は、有限サイズを有するが、得られた観測結果から、送信機、受信機の形状を組み込み、真の領域内部の構造を導く計算理論を開発した。本研究成果は、実用上、非常に有効であると考える。上記、散乱場理論では、送信点、受信点は“非常に小さい”点である前提であるが、波動に指向性を持たし、送信点から離れた領域を可視化するためには、送信機を大型にすることが重要である。本計算理論を用いることで、領域端から測定対象物の距離を含めて、十分なS/Nを確保した”透視“が可能となり、ビーム性と波動性を両立した観測技術が実現、顕微鏡からレーダまで幅広い応用が拓けることとなる。
1: 当初の計画以上に進展している
散乱場理論においては、送信点、受信点は無指向性の素子を前提としている。レーダでは一つのアンテナが複数のアンテナ素子から構成されていてそれらが本質的に同位相で動作するようになっている。フェーズドアレイも本質的には位相を揃えている。こうすることで開口面を大きくし、指向性を向上させるように設計されている。このような指向性と散乱場理論を両立させることが可能となれば実用上、非常に価値がある。散乱場理論における散乱場関数を用いると、この両立を実現することができる。本研究では、最も基本的な送信点と受信点の構成を基にした2次元配逆散乱理論―境界が平面の場合―を例に取り上げ、指向性と散乱場理論を両立させることを試みた。アンテナのサイズは通常使用する電磁波の波長に比べて十分大きいとし、簡単化のためにアンテナの形状を長方形と定めた。この有限サイズアンテナで測定した観測結果を用いて、指向性を考慮した散乱場の式を導出することに成功した。
我々は、散乱性の高い波動によって得られる領域端での観測結果から、領域内部の構造を再構成、映像化することが可能な散乱場理論の構築に成功した。これまで、誘電分散、多重散乱の影響の理論的考察を進展させ、さらに、遠方の物体の透視において、工学的に重要となる、波動送受信源の有限サイズ効果を考慮した解析法の導出に成功してきた。本研究では、広い領域の透視を可能とするフェーズドアレイ法の組み込みと、透視の画像の解像度を向上させる際に必須である“波動送受信源の微細化”、素子数の増大に伴う、送受信回路の大規模化を回避することに有効な、情報量を減じた観測結果で有効に透視を実現する計算方法の開発に取り組む。具体的には、超音波のリアルタイム3次元映像化理論と方法の開発を進める。超音波を用いた映像技術は古くから様々な分野で広く使用されており、医療用のエコー装置や金属構造物などを対象とした非破壊検査分野が主な適用分野である。プローブの形状は単一の送受ペアか1次元アレイが主流である。医療用の装置では1次元アレイを用い、印加信号に関しては空間のある深さでフォーカスするような信号群を用い、それをアレイセンサ上でリニア走査して得られるBモード画像が通常、最終画像として使用される。本研究では、一次元の超音波アレイを直交させ、一方を送信用、他方を受信用とする直交2次元配列を用いる。さらに、アレイをフェーズドアレイとして動作させることを想定する。すなわち、従来のフェーズドアレイ法を組み込んだ散乱場理論を構築し、広い領域を透視可能となるだけでなく、様々な角度での波動の照射が可能となり高S/Nも期待できる。本計画が成功すれば、世界初の技術となり、医療、地下探査など様々な分野に革新がもたらされることが期待できる。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
Japanese Journal of Radiological Technology
巻: 79 ページ: 84~89
10.6009/jjrt.2023-2146