研究領域 | グリアデコーディング:脳-身体連関を規定するグリア情報の読み出しと理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05897
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 隆太 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (90431890)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | ミクログリア / シナプス / アストログリア / ライブイメージング / ネットワーク |
研究実績の概要 |
脳に存在する興奮性神経細胞と抑制性神経細胞は、それぞれ適切な密度のシナプスを形成し、機能的な神経回路を構成する。シナプスの興奮と抑制のバランスは正常な脳機能発揮に重要であり、その崩壊は様々な脳疾患につながる。そして、シナプスは脳内免疫細胞であるマイクログリアの貪食によって刈り込まれ、その密度が制御されているが、マイクログリアによるシナプス貪食がシナプス興奮抑制バランスの調節に関与するかは明らかではない。本研究では、熱性けいれんモデルマウスを用いて、マイクログリアによる抑制性シナプス特異的な貪食が、シナプス興奮抑制バランスの崩壊に繋がることを明らかにした。実験的熱性けいれんは、海馬における抑制性神経細胞の活動を長く持続させ、抑制性シナプス密度を減少させた。さらに、この抑制性シナプス密度の減少は、マイクログリアによる抑制性シナプス特異的な貪食に起因し、けいれん閾値の低下につながった。我々は、活動が高い神経細胞のシナプスがマイクログリアによって優先的に貪食されるという新しい発見の分子細胞生物学的メカニズムを探るために、マイクログリアの形態を再現した新規培養系を構築した。高いレベルの時空間的解像度でシナプス貪食のリアルタイムイメージングをおこうことにより、神経活動の上昇が、シナプティックアポトーシスを誘導し、そこに補体分子であるC1qが存在する場合には、マイクログリアによるシナプス貪食が誘導されることを明らかにした。そして、熱性けいれんモデルマウスにおいても、同様のメカニズムで抑制性シナプスが刈り込まれ、てんかん原性の獲得につながることが明らかになった。我々の発見は、シナプスの形成と維持のメカニズムに関して、活動の高いシナプスがシナプス競合を経て選別されることで神経回路に残存するといった一般的な概念とは異なり、活動の高いシナプスが除去されるという現象とそのメカニズムを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミクログリアは脳内で異種細胞と頻繁に接触するが、細胞間相互作用が誘導されるメカニズムや、相互作用の意義には不明な点が多く、ミクログリアをターゲットにした生体制御を困難にしている。そこで、本研究では細胞間相互作用によって生じるミクログリア多様性の形成メカニズムを遺伝子レベルで解明し、ミクログリアの機能調節に基いた生体制御を達成することを目的とする。この目的を達成するために、in vivoのミクログリア形態を再現した新規グリア培養系の確立が必要であったが、これまでに、ミクログリアだけでなく、他の脳細胞の形態を再現した培養に成功している。また、シナプス貪食という、ミクログリア・ニューロン間の重要な相互作用の一つについて、超解像度ライブイメージングで観察するとともに、シナプス貪食のメカニズムについて局所アポトーシスの関与を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのグリア神経培養系をさらに三次元化し、より生体内の細胞構造に近い培養系の確立を目指す。これにより、各種脳細胞(ミクログリア・アストログリア・ニューロン)の相互作用における分子メカニズムの、より詳細かつ正確な理解につながることが期待される。本系をグリア神経複合体培養と呼ぶ。まず、グリア神経複合体培養系を用いて、超解像度ライブイメージングを行いながら細胞間相互作用を様々な視点から観察する。次に、これによって得られた、脳細胞の新しい相互作用形式に関して、そのメカニズムを明らかにするための研究を行う。そのために、細胞間相互作用を調節するためのセットアップを完成させる。具体的には光刺激やケージ度化合物の利用により、ライブイメージング中にシナプスやグリア突起などの微小構造の機能を調節する。この調節によって、各種脳細胞に生じる変化(遺伝子発現・細胞内シグナリングなど)を検証する。特に、細胞間相互作用によって生じるミクログリアの遺伝子発現情報の変化を明らかにすることを目指す。
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