計画研究
ミクログリアは、単に免疫細胞としてでなく、シナプスの伝達様式や形態制御など脳の中核機能の制御に非常に重要な役割を果たしている。しかしこれまでの殆どの研究は、マウス等のげっ歯類ミクログリアを用いた研究であった。ヒトとげっ歯類グリア細胞の性質が大きく異なる事、またin vitroと実際の脳内in vivoでのグリアの性質が違うこと等を鑑みると、これまでのミクログリア研究で得られたことから本当のヒトミクログリアの性質を外挿することは困難であると言える。本年は先ず、ヒトiPS細胞からミクログリアを分化させ(iPSMG)、このiPSMGを非侵襲的にマウス脳内に移植する技術開発を行った。移植には、colony stimulating factor-1受容体(CSF1R拮抗薬)拮抗薬による既存ミクログリアの薬理学的除去と、経鼻移植法を組み合わせることにより行った。従来の外科手術による移植と異なり、経鼻移植の開発により、簡便、安定的かつ安全な移植が可能となった。また脳は、免疫寛容であること、唯一の免疫細胞ミクログリアをCSF1R拮抗薬で除去すること、移植が完全非侵襲的であるために末梢の免疫細胞の浸潤が無い事の理由により、ヒト細胞であるiPSMGをマウスに移植したにもかかわらず、iPSMGはマウス脳内で少なくとも2ヶ月は存在した。これにより、免疫抑制剤や免疫不全動物が不要となり、真のヒトミクログリアの性質解析が可能となった。今後は、移植されたiPSMGの性質を詳細に解析することで、ヒトミクログリアが脳内で果たす生理的及び病態生理的役割の解明に繋げていく予定である。さらに、ミクログリアを非侵襲的に置換することが可能となった(移植及び自己再生による置換)。ミクログリア置換法を用いることで、積極的にミクログリアに介入することで、ミクログリアが脳機能に果たす役割解明が大きく進むことが期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
ヒトiPSMGの完全非侵襲的移植法の開発に成功し、これを用いてミクログリアによる全身監視・制御メカニズム解明の礎が確立できた点。
昨年度までに開発したミクログリアの非侵襲的移植法に加え、ミクログリアを自己再生により入れ替える方法(リセット)も確立した。これらのミクログリア「置換」技術を用い、ミクログリア置換が脳機能に与える影響を、特に疾患モデル動物を用いて明らかにする。置換により変化するミクログリアの性質の分子生物学的な解析、置換により変化する脳の性質の分子生物学的及び機能的解析を通し、ミクログリアが疾患の分子病態にはたす役割とその様式、さらに分子メカニズム解明に繋がる基礎データを取得する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (44件) (うち国際学会 4件、 招待講演 9件)
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