研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
20H05907
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松林 嘉克 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00313974)
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研究分担者 |
望田 啓子 (桑田啓子) 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任講師 (70624352)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 硝酸トランスポーター / フォスファターゼ / 脱リン酸化 |
研究実績の概要 |
動き回ることのできない植物は,土壌中の窒素などの栄養源に代表されるような空間的に不均一な環境に適応する必要がある.また光合成を行なう気相と栄養吸収を行なう土相という異なる環境空間にまたがって生育するため,地上部と地下部の双方において変動する環境情報を時空間的に統合して適応する必要に迫られる.本研究では,これらの不均一変動環境への適応過程に関わる長距離シグナル伝達に着目し,その分子群の同定や情報統御メカニズムの解明を目指している. 今年度は,硝酸トランスポーターNRT2.1の活性調節を担うフォスファターゼを発見した.植物の根の細胞表面には硝酸トランスポーターが高レベルで発現しており,これらを介して土壌中の硝酸を細胞内へ吸収しているが,硝酸取り込み量の制御は,トランスポーター遺伝子の転写量だけでなくタンパク質レベルの活性制御も重要であることが指摘されてきた.そこで,葉から根に移行する窒素要求シグナルCEPD/CEPDLの下流で誘導される遺伝子群の中で,強く誘導されるホスファターゼに着目した.このホスファターゼは根の外皮や皮層の細胞質で主に発現し,窒素欠乏に陥るとCEPD/CEPDL依存的に発現量が増加することから,CEPD-induced phosphatase(CEPH)と命名した.解析を進めた結果,CEPHはNRT2.1のSer501を脱リン酸化して,硝酸イオン取り込み活性をONにする働きをしていることが明らかとなった.NRT2.1のSer501は,リン酸化されると硝酸取り込み活性がOFFになるnegative phospho-switchであることが知られている.CEPHの発見により,CEPDがNRT2.1を転写レベルだけでなく,脱リン酸化によるタンパク質レベルで制御していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全身的窒素要求シグナリングでは,既にCEP-CEPR-CEPDなどの主要コンポーネントが明らかになっているが,①窒素欠乏の根におけるCEP誘導のメカニズム,②葉におけるCEPR活性化からCEPD誘導までの分子機構,③根に移行したCEPDが根圏の窒素状況依存的に硝酸取り込みを活性化するメカニズム,などについてはまだ明らかになっていない.特に,②と③に関わる分子群を見出すことはCEP-CEPR-CEPD経路を理解する上で不可欠である. 今回発見したホスファターゼCEPHは,③に関わる分子群のひとつと考えられ,硝酸取り込みを活性化するメカニズムの理解のために大きな前進となった.また,①と②の解析では,トランスクリプトームやリン酸化プロテオミクスによってシグナリングに関与する分子群の探索を進めており,複数の候補分子を得ている.③に関わる分子群の解析では,共免疫沈降によるCEPD相互作用タンパク質の同定も進めており,得られた候補分子について欠損株の表現型観察やCEP応答性を解析している.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記した各項目の研究を引き続き進めていく.また,シロイヌナズナにはCEPD1のホモログが21個存在しており,その多くは葉の篩部で特異的に発現している.我々は,既にそれらのひとつCEPD-like2(CEPDL2)が,葉の窒素需要を根に伝える長距離移行シグナルであることを見出している(Nature Commun 2020).この事実は,これらCEPD1ホモログの中に,変動する環境情報を時空間的に統合して適応する過程に関わる新たな長距離シグナルが含まれている可能性を強く示唆するため,各ホモログについて機能解明を進めていく.
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