研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
20H05910
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 俊則 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 教授 (50271101)
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研究分担者 |
今泉 貴登 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 招へい教員 (60767466)
児玉 豊 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 教授 (00455213)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 植物 / 環境変動 / 気孔 / 花成 / 光受容体 |
研究実績の概要 |
植物の表皮に存在する気孔は、光合成に必要な二酸化炭素の取り入れ口であり、光や湿度、二酸化炭素濃度に応答して開閉を行い、植物と大気間のガス交換を調節している。また、農作物の収量を直接左右する花芽形成(花成)も、光、日長、温度を始め、様々な環境因子により制御されている。しかし自然界で植物が晒されている変動的な複合環境要因下でどの様にシグナルネットワークが働き、気孔開度や花成が制御されているかは殆ど理解されていない。本研究では、不規則な環境変動により引き起こされる気孔開度制御や花成の段階的なステージゲート応答の分子機構を、参画研究者らのこれまでに培ってきた技術・経験を生かした生理・生化学的手法やイメージングを始め、新たな組織、細胞レベルでのオミクスアプローチも駆使して解明を進めた。さらに、これらの知見に基づき気孔開度や花成をより精密に制御することで、植物の成長促進や収量増産の技術の確立を目指した。 また、植物がどの様に様々な複合環境情報を感知し、開花を含めた栄養成長から生殖への相転換を分子レベルで制御するのか解析を進めてきた。適切な開花時期の制御はその後の生殖成長過程に大きな影響を与えるため農作物の生育においても重要な過程である。本研究班では具体的には相転換を司るフロリゲンをコードするFLOWERING LOCUS T (FT)遺伝子の複合環境要因もしくは長期的刺激に応答した(ステージゲートを介した)転写制御機構、また植物体内での組織、細胞レベルでの制御機構の解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
長期的な環境刺激に応答した気孔開度と花成制御の解析を進め、通常FTの発現が誘導されない短日条件下においても、乾燥ストレスにより、実際にFTの発現が高まり、花成が誘導されることを初めて示した。この結果により、今後の長期的な環境刺激のモデルケースとして研究を進める基盤が整った。また、これまでの基礎研究により明らかとなってきた気孔開口の駆動力を形成する細胞膜プロトンポンプを用いた気孔開度制御については、細胞膜プロトンポンプの発現を高めたイネを用いて詳細な解析を行い、野外圃場においてもイネの収量が30%増加することを見出し、Nat. Commun. (2021)に発表し、多くのメディアで紹介された。 さらに、環境変動による花成の制御に関しては、モデル植物シロイヌナズナを材料に、窒素量に応じた植物の開花制御にある転写因子の働きが重要であること、そして、その転写因子の機能を調節する方法として、リン酸化修飾が鍵となることが明らかとなった。通常、植物体内でその転写因子は多くのリン酸化修飾を受けているが、この度合いが窒素欠乏条件で育てた植物体内では顕著に減少していた。この転写因子のリン酸化修飾は、ある特定のプロテインキナーゼにより行われており、まさに開花のブレーキとなっていて、このブレーキが外れると「花咲かホルモン」である「フロリゲンFT」が増加し、開花が誘導されていると考えられる。このように、土壌の栄養変動環境に応じて開花のタイミングを調節する仕組みを明らかにし、原著論文として投稿をおこなった。 このように研究が大きく進展していることから「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、以下の研究を進めていく。 1、長期的な環境刺激に応答した気孔開度と花成制御の解析 長期的な環境刺激(乾燥ストレスや栄養ストレスなど)が、気孔孔辺細胞や葉(師部伴細胞)にどのような影響を与えているのかを明らかに することを目的として、組織、細胞レベルでのオミクス解析を進める。 2、FTを介した(日長に応答した)気孔開度の制御の分子メカニズムの解析 ”FTは気孔において異なるタンパク質との結合を介して気孔開度の調節を行う”という仮説の元に孔辺細胞におけるFTの結合タンパク質の同 定を行う。さらに異なる環境条件下で同定した因子の気孔開度制御の関与の有無を調べる。 3、葉における組織、細胞レベルでの環境応答依存のFT 遺伝子発現制御の解析 複合環境下の花成制御機構を理解する上で、異なる環境情報がどこで受容され、どの様にFTの発現誘導を限られた細胞で引き起こすのか解析 する必要がある。そこで本研究では個々の葉における組織、細胞レベルでの環境応答を、組織、細胞特異的なオミクスアプローチ(組織特異的 TRAP-seq /INTACT-RNA seq, single cell RNA-seq/ATAC-seq 等)を用いて松下班、佐瀬班、次世代シークエンス部門と連携して調べる。 4、環境シグナル制御機構の解析 植物において複合環境シグナルが統合され機能として出力されるメカニズムを明らかにするため、児玉が発見した光受容体の複合環境(光・ 温度)感知能と光受容体の空間密度による機能発出との関係を明らかにする。具体的には複合環境感知能を改 変した変異型光受容体における空間密度の解析や、空間密度を改変した変異型光受容体の複合環境感知能を解析する。また木下・今泉と連携し 、変異型光受容体による気孔開閉や花成への影響も調べる。
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