研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
20H05911
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉本 慶子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, チームリーダー (30455349)
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研究分担者 |
松永 幸大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323448)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 植物生理学 / 細胞生物学 / 発生遺伝学 |
研究実績の概要 |
本研究では、主に植物が不規則変動する複合環境情報を統合する機構、またこうした複合環境情報に応答してプロテオームを最適化する機構の解明を目指している。今年度はまず傷害修復に対する光の影響を解析する実験系を設定し、これらの条件下で傷害応答、特に長期間にわたる茎葉再生にどのような影響がみられるかを検討した。また今年度は傷害修復に関与する制御因子の発現を量的に調節する転写ネットワークの解明を進めた。まず傷害誘導性の細胞リプログラミングを促進するWIND1転写因子が制御する下流標的因子を同定するため、WIND1の発現を誘導するXVE-WIND1植物を作成し、WIND1誘導後のトランスクリプトーム解析を行った。この結果、WIND1がカルス形成や器官再生の制御因子だけでなく、道管形成の主要制御因子や病害応答制御因子の発現を誘導することを見いだした。さらにWIND1の機能抑制体であるWIND1-SRDX植物を使った表現型解析から、WIND1が傷害部位でのカルス形成だけでなく、切断された植物組織間で道管を再形成し接ぎ木を確立したり、トマト斑葉細菌に対する抵抗性を示したりするために機能していることを明らかにした。さらに、今年度は環境刺激後に長期間にわたる茎葉再生への影響を解析するために、あらかじめ放射線照射した植物体の茎葉再生を研究した。また、複合環境情報を統合する分子メカニズムとして遺伝子の転写活性化が想定された。この遺伝子の転写活性化を個々の細胞や組織においてライブイメージング解析する手法の開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナを用いた茎葉再生の解析では、暗黒条件下で生育した黄化芽生えの下胚軸を外植片とし、これを光条件下、植物ホルモンを含む培地に置床する実験系がよく用いら れる。今年度行った実験から、芽生えが傷害ストレスを受ける前に弱い光シグナルを受容することがその後の茎葉再生に重要であることが分かった。さらに、切り出した外植片を光条件下ではなく、暗黒条件下において培養すると茎葉がほとんど再生しないことから、傷害ストレス受容後には十分な光シグナルを受容することが茎葉再生に必須であることも判明した。またWIND1を軸としたプロテオームの最適化機構解析からは、WIND1が病害応答と器官再構築という2つの重要な傷害応答を制御するマスターレギュレーターとして機能することを示唆する結果を得ることができた。植物体が受けた環境刺激や環境変動が植物再生に与える影響を調べるために、放射線照射による影響を調べた。その結果、脱分化誘導を開始する数日前の植物体に放射線照射することが、数週間後の植物体の茎葉再生に影響を与えることが判明した。遺伝子発現の差をRNAseq解析により調べた結果、植物ホルモンにより誘導される遺伝子の転写産物に差があることが判明した。さらに、RNAポリメラーゼIIのリン酸化修飾抗体の一部を植物体内において発現させるライブイメージング技術の開発に成功し、環境刺激によって個々の細胞において転写活性化を追跡することができるようになった。これらの成果は初年度に予定していた研究計画に沿ったものであり、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度設定した光条件下でRNAseq解析を行い、傷害ストレス受容前後の光条件がどのような転写変化を経て茎葉再生に影響を与えるのか明らかにする。また光による茎葉再生の制御様式が下胚軸や根など器官によって異なる可能性があるため、こうした器官特異性の有無を確認するとともにその分子実体を明らかにする。これまでに進めてきた転写量変化に基づく制御機構の解明に加えて、光や傷害が転写開始点変化を引き起こすことで再生を制御する可能性も検討する。このため傷害付与後のサンプルを用いてTSSseq/CAGE解析を行い、傷害ストレスを受容して転写開始点が変化する遺伝子を網羅的に同定する。また光条件に関しては光受容体の変異体を用いてTSSseq/CAGE解析を進めることで、転写開始点制御によりプロテオーム多様性を生み出す仕組みが再生の分子メカニズムに関与することを明らかにする。また今年度から少数細胞を用いたエピゲノム解析を行う実験系の確立を進める。現行のChIPseq法の改良を検討するほか、傷害応答を示す細胞をマーカー遺伝子の発現によって標識し、INTACT法もしくはセルソーターによって単離する方法を確立し、CUT&RUNなど別の手法でヒストン修飾変化を定量する系を立ち上げる。植物体が受けた環境刺激や環境変動が植物再生に与える影響を調べた結果、植物ホルモンにより誘導される遺伝子の転写産物に差があることが判明したため、植物ホルモンの内生量や誘導される遺伝子の変異体を用いて植物再生への影響を調べる。また、RNAポリメラーゼIIのリン酸化修飾抗体の一部を植物体内において発現させるライブイメージング技術の開発に成功したため、ヒストン修飾の変動も追跡できるように、ヒストンのメチル化を認識する抗体の一部を用いたライブイメージング技術の開発を進める。
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