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2022 年度 実績報告書

発達期小脳におけるシナプス刈り込みの臨界期の解明

計画研究

研究領域脳の若返りによる生涯可塑性誘導ーiPlasticityー臨界期機構の解明と操作
研究課題/領域番号 20H05915
研究機関東京大学

研究代表者

狩野 方伸  東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (40185963)

研究分担者 菅谷 佑樹  東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (00625759)
研究期間 (年度) 2020-11-19 – 2025-03-31
キーワードシナプス刈り込み / 生後発達 / 小脳 / 登上線維 / プルキンエ細胞
研究実績の概要

令和4年度は、引き続き、転写因子Myocyte enhancer factor 2 (MEF2) familyのうち、プルキンエ細胞に強く発現する分子のプルキンエ細胞特異的KOマウスを解析した。その結果、登上線維の樹状突起への進展が軽度に障害されており、プルキンエ細胞の細胞体に余剰な登上線維シナプスが残存していることが明らかになった。一方、平行線維からの興奮性シナプス入力や抑制性シナプス入力に異常は見られなかった。また、小脳のRNA-sequencingを行った結果、プルキンエ細胞特異的KOマウスにおいて、9個の遺伝子が有意な発現低下を示し、62個の遺伝子が有意な発現上昇を示した。さらに、プルキンエ細胞に強く発現する転写因子MEF2 familyのうちで、上記とは別の分子のプルキンエ細胞特異的KOマウスを解析した。その結果、生後20日から30日において、2本以上の登上線維によって支配されるプルキンエ細胞の割合が野生型マウスに比べて有意に高いことが判明したが、生後15日までは異常が認められなかったことから、生後16日以降の登上線維シナプス刈り込みに異常があることが考えられた。
また、プルキンエ細胞においてP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(P/Q-VDCC)によって活性化されると考えられるMEF2 familyとは別の転写因子の解析を継続した。この転写因子をプルキンエ細胞特異的にノックダウン(KD)すると生後2週目後半から3週目の後期刈り込み過程が障害され、登上線維の樹状突起へのシナプス領域の拡大の程度が弱くなるが、これらがP/Q-VDCCと同じ分子パスウェイを介することを示す結果を得た。また、この転写因子をKDした小脳では、一部のセマフォリンの発現が上昇しており、このセマフォリンをプルキンエ細胞で過剰発現すると、転写因子のKDと同様の登上線維シナプス刈り込みの異常を生じた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和4年度は8月まで、COVID-19の感染の広がりがあったが、秋以降には感染状況は好転し、研究への影響は軽微となった。プルキンエ細胞に発現するMEF2 family分子のうち、令和2年から解析していた分子については、この分子のプルキンエ細胞特異的KOマウスの登上線維シナプス刈り込みに関する電気生理学的および形態学的解析をほぼ終了した。また、もう一つのMEF2 family分子についても、そのプルキンエ細胞特異的KOマウスの電気生理学的解析がほぼ終了し、形態学的データを取得済みであり、今後その解析を進めることになる。プルキンエ細胞においてP/Q-VDCCによって活性化されるMEF2 familyとは別の転写因子の登上線維シナプス除去における役割についての研究は、予定をやや上回るペースで進んでいるといえる。特に、この転写因子が一部のセマフォリンの発現を抑制することによって登上線維シナプス除去を促進していると考えられる結果を得たことは、これまで知られていたセマフォリンの登上線維シナプス発達への作用とP/Q-VDCCを介するカルシウム流入との関係を明らかにしたことになり、大きな進歩と考えられる。

今後の研究の推進方策

MEF2 family転写因子の登上線維シナプス刈り込みにおける役割については予定した解析をほぼ終了した。今後は、当該分子のプルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの網羅的行動解析に注力する。一方、プルキンエ細胞においてP/Q-VDCCによって活性化されると考えられる転写因子の役割についてさらに研究を進める。この転写因子をKDした小脳で発現が上昇しているセマフォリンの過剰発現と当該転写因子のKDを同時に行った場合、登上線維シナプス刈り込みがどのようになるかを調べる。また、このセマフォリンのプルキンエ細胞でのKDが当該転写因子のKDの効果を軽減するかどうかを調べる。
今後、新たにシナプスオーガナイザー分子の登上線維シナプス発達における役割に注目する。シナプスオーガナイザーは、細胞外ドメインを介して選択的相互作用をすることで、シナプス前部と後部をマッチングさせてシナプス形成を誘導する一群の分子で、このうち、LAR-RPTPsはシナプス前部オーガナイザーである。申請者らの予備的実験で、LAR-RPTPsに属する分子のノックアウト(KO)マウスでは、登上線維の樹状突起移行が明らかに障害されていることが示唆されている。そこで、この分子の局在を免疫組織学的手法で調べ、小脳の部位(小脳小葉)の違いによって登上線維の樹状突起移行に差があるかを明らかにする。さらに、このKOマウスにおいて登上線維シナプス除去に異常がみられるかを、新生児期から生後4週目まで網羅的に調べるとともに、登上線維からプルキンエ細胞へのシナプス応答を電気生理学的に精査する。並行して、microRNAによってこの分子を登上線維特異的にKDすることを試みる。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件)

  • [国際共同研究] ミュンヘン工科大学(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      ミュンヘン工科大学
  • [雑誌論文] mGluR5 Is Substitutable for mGluR1 in Cerebellar Purkinje Cells for Motor Coordination, Developmental Synapse Elimination, and Motor Learning2022

    • 著者名/発表者名
      Harbers Maria、Nakao Harumi、Watanabe Takaki、Matsuyama Kyoko、Tohyama Shoichi、Nakao Kazuki、Kishimoto Yasushi、Kano Masanobu、Aiba Atsu
    • 雑誌名

      Cells

      巻: 11 ページ: 2004~2004

    • DOI

      10.3390/cells11132004

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Endocannabinoid-dependent formation of columnar axonal projection in the mouse cerebral cortex2022

    • 著者名/発表者名
      Itami Chiaki、Uesaka Naofumi、Huang Jui-Yen、Lu Hui-Chen、Sakimura Kenji、Kano Masanobu、Kimura Fumitaka
    • 雑誌名

      Proceedings of the National Academy of Sciences

      巻: 119 ページ: e2122700119

    • DOI

      10.1073/pnas.2122700119

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] Calcium-Dependent Regulation of Climbing Fiber Synapse Elimination in the Developing Cerebellum2023

    • 著者名/発表者名
      Masanobu Kano
    • 学会等名
      IRCN-iPlasticity International Symposium
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 神経活動に依存したシナプス刈り込みによる成熟神経回路の形成2023

    • 著者名/発表者名
      狩野 方伸
    • 学会等名
      日本生理学会第100回記念大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 小脳における発達期シナプス刈り込みの活動依存的制御2022

    • 著者名/発表者名
      狩野 方伸
    • 学会等名
      第45回日本神経科学大会(NEURO2022,)
    • 国際学会
  • [学会発表] 神経発火異常を引き起こす巨大スパインの非線形コンピュテーション2022

    • 著者名/発表者名
      小尾(永田) 紀翔、鈴木 紀光、Matthew L. MacDonald、Kenneth N. Fish、白井 福寿、沖村 宰、長濱 健一郎、田中 昌司、狩野 方伸、Robert A. Sweet、林(高木) 朗子
    • 学会等名
      第45回日本神経科学大会(NEURO2022,)
    • 国際学会
  • [学会発表] 小脳プルキンエ細胞特異的なmGluR5の発現はmGluR1の運動協調およびシナプス刈り込みの機能を代替できる2022

    • 著者名/発表者名
      ハーベス まりあ、中尾 晴美、渡邉 貴樹、岸本 泰司、狩野 方伸、饗場 篤
    • 学会等名
      第45回日本神経科学大会(NEURO2022,)
    • 国際学会
  • [学会発表] Diacylglycerol lipase-α ノックアウトマウスにみられる早期眼優位可塑性への抑制性神経回路の関与2022

    • 著者名/発表者名
      亀山 克朗、米田 泰輔、後藤 隆浩、寺田 慧子、高木 正浩、吉村 由美子、崎村 建司、狩野 方伸、畠 義郎
    • 学会等名
      第45回日本神経科学大会(NEURO2022,)
    • 国際学会
  • [学会発表] Calcium-dependent regulation of climbing fiber synapse elimination in the developing cerebellum2022

    • 著者名/発表者名
      Masanobu Kano
    • 学会等名
      The 12th International Symposium of the RESEARCH ON THE CEREBELLUM AND ATAXIAS (SRCASRCA2022)
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2023-12-25  

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