研究領域 | 脳の若返りによる生涯可塑性誘導ーiPlasticityー臨界期機構の解明と操作 |
研究課題/領域番号 |
20H05915
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
狩野 方伸 帝京大学, 先端総合研究機構, 教授 (40185963)
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研究分担者 |
菅谷 佑樹 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (00625759)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | シナプス刈り込み / 生後発達 / 小脳 / 登上線維 / プルキンエ細胞 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、P/Q型電位依存性カルシウムチャネル(P/Q-VDCC)によって活性化されると考えられる転写因子Zと、これを生後発達期のプルキンエ細胞においてノックダウンした場合に発現上昇するセマフォリン3A(Sema3A)との関係を調べた。発達期のプルキンエ細胞において、ZのノックダウンとSema3Aの過剰発現を同時に行った際の登上線維シナプス刈り込みの障害の程度を、それぞれ単独の操作の場合と比較した。このため、生後4週目に小脳スライスを作製して、登上線維シナプス-プルキンエ細胞シナプスを電気生理学的に解析した。その結果、ZのノックダウンとSema3Aの過剰発現を同時に行った場合の登上線維シナプス刈り込みの障害の程度は、それぞれ単独の操作の場合と有意差がなかった。また、ZのノックダウンとSema3Aのノックダウンを同時に行うと、登上線維シナプス刈り込みの障害の程度が軽減した。これらから、Zはプルキンエ細胞のSema3Aの発現を抑制することにより、登上線維シナプス刈り込みを促進することが考えられた。 また、シナプス前部オーガナイザーのひとつであるPTPδが登上線維に存在することを免疫組織学的手法で解明した。PTPδノックアウトマウスでは、登上線維の樹状突起移行が障害されていたが、その程度は、小脳前葉の方が後葉に比べて強かった。また、小脳前葉において、登上線維刺激によるシナプス電流が減弱しており、生後3日から13日において、登上線維シナプス刈り込みが促進していた。また、PTPδを登上線維においてノックダウンすると、シナプス電流の減弱と刈り込みの促進がみとめられた。これらの結果から、主として小脳前葉においてPTPδが登上線維におけるシナプスオーガナイザーとして働き、登上線維プルキンエ細胞シナプス形成とその維持に関わると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写因子Zに関しては、生後発達期のプルキンエ細胞において、Sema3Aの発現を抑制することによって、登上線維シナプス刈り込みを促進することを明らかにした。予定していたデータを全て取得し、論文をほぼ完成することができた。PTPδについては、これまでの結果をまとめて論文発表した。今後、PTPδと相互作用するシナプス後部オーガナイザー候補を検索する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
プルキンエ細胞において、PTPδと相互作用して登上線維シナプス発達に影響するシナプス後部オーガナイザー分子を探索する。このため、PTPδの結合候補分子を、子宮内電気穿孔法またはウイルスを用いたRNAiノックダウン法によって、発達期のマウスのプルキンエ細胞において欠損させる。これらのマウスにおいて、登上線維シナプスの形成や刈り込みに異常がみられるかを、新生児期から生後4週目まで電気生理学的・形態学的に調べる。 また、PTPδのヘミ接合体または変異が、自閉スペクトラム症や注意欠陥多動性障害などの発達障害の患者で報告されていることから、PTPδヘテロノックアウトマウスがこれらのモデルマウスとなりうるかどうかを調べる。このため、PTPδヘテロノックアウトマウスの成体において、精神疾患や発達障害に関連する網羅的行動解析を行う。また、小脳の異常が自閉スペクトラム症類似の症状を引き起こす可能性があることから、小脳の生後発達について、登上線維シナプスの発達に焦点を当て、電気生理学的・形態学的解析を行う。
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