研究領域 | マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界 |
研究課題/領域番号 |
20H05926
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
千葉 志信 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (20523517)
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研究分担者 |
内藤 哲 北海道大学, 農学研究院, 農学研究院研究員 (20164105)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | 機能性新生鎖 / 翻訳アレスト / リボソーム |
研究実績の概要 |
本研究課題は、新生鎖の状態で、制御された翻訳アレストという機構を用い、細胞内環境をモニタリングし、遺伝子発現制御を介して細胞の機能を調節する「機能性新生鎖」の生理機能と分子機構の解明を目指している。 代表者・千葉は、昨年度複数同定した新規のアレストペプチドの解析を進めた。これらの中の多くは、ApcA, ApdA, ApdPと同様、C末端付近にRAPP様配列を持つものが多く、共通のしくみで翻訳アレストを引き起こしていることが示唆されたが、翻訳停止位置や変異による効果などに共通性が見出された。また、国際共同研究により、ApdA、ApdPのリボソーム複合体の構造解析を行い、この両者がC末端付近においてリボソーム内で同じ構造をとることで翻訳アレストを起こしている事が示された。また、この構造は、別のアレストペプチドであるSecMとも共通していた。 研究分担者の内藤は、植物における小胞体ストレス応答を司るbZIP60転写因子の活性化に関する解析を行い、シロイヌナズナ、イネ、イヌカタヒバ(小葉シダ類)、およびヒメツリガネゴケ(セン類)のオルソログで翻訳アレストが起ることを見出した。シロイヌナズナ、イネ、およびヒメツリガネゴケのbZIP60オルソログでは翻訳伸長過程で翻訳アレストが起こるのに対して、イヌカタビバでは翻訳終止段階で翻訳アレストが起こっていた。また、同じ翻訳伸長段階での翻訳アレストであっても、シロイヌナズナとヒメツリガネゴケでは翻訳アレストを引き起こすアレストペプチドの配列が異なっていた。同じ生理現象に関わる翻訳アレストで、「アレスト方策」が異なることは興味深い。一方、ゼニゴケ(タイ類)や藻類のオルソログでは翻訳アレストは検出されず、bZIP60転写因子の活性化に翻訳アレスト以外のメカニズムが作用していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
千葉は、バイオインフォマティクスから新規のアレストペプチドを多数発見し、その解析から、細菌のアレストペプチドに共通する配列や構造、分子機構などを明らかにした。この結果は、細菌界のアレストペプチドの進化についての非常に重要な知見であり、この研究計画の当初の想定を超える大きな進展となった。 内藤は、植物における小胞体ストレス応答と翻訳アレストの関係について報告した。動物における機能的オルソログとは全く異なる新たなアレスト配列を発見すると共に、植物間における進化系統との関連、ならびに、植物と動物の類似点と差異について興味深い知見を報告した。
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今後の研究の推進方策 |
千葉は、ApcA、ApdA、ApdPと、新規アレストペプチドの中でもこれらと共通性を持つアレストペプチドについて、網羅的な変異解析を行い、これまで明らかにした共通性に加えて、リボソームとの相互作用などにどのような多様性が存在するのかを明らかにする。 内藤は、植物bZIP60転写因子における翻訳アレストを含めて、広く真核生物における翻訳アレストについて、コムギ胚芽抽出液および、ウサギ網状赤血球ライセートの試験管内翻訳系を用いた数理解析を進める。これにより、「機能性新生鎖」のアレスト状態と生理機能の研究を展開する。
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