計画研究
教科書的な翻訳ルールに従って生合成され,自発的に固い構造に折りたたまるという古典的描像の埒外にあるタンパク質が近年存在感を増している.ノンコーディングRNAや非典型的な翻訳機構に由来するタンパク質を対象とした予備的な解析では,それらの多くは比較的短い天然変性タンパク質であった.反復配列,低複雑性配列を含む天然変性タンパク質が翻訳後修飾などを契機として液-液相分離を引き起こして液滴を形成し,機能することも話題となっている.つまり本領域で研究対象とする未開拓タンパク質の多くは,天然変性タンパク質だと考えられる.その構造・機能を理解するためには,対象となるデータを集めて編集し,情報解析する必要がある.2022年度は前年度に結成した研究推進チームをフル活用し,データベース開発と情報解析を実施した.データベース開発では前年に開発を開始した天然変性タンパク質が機能する様子を視覚化するためのシステム作りを加速化し,このシステムを利用したアノテーションにも力を入れた.情報解析ではAlphaFold構造を利用した条件付折りたたみ領域(Protean Segment:ProS)の予測構造評価や,液ー液相分離に関与するタンパク質の配列解析を行った.AlphaFoldはProSが長いヘリックスなどであれば精度良く予測することや,FUSなどの単独でも液ー液相分離が起こるタンパク質の低複雑性領域はアミノ酸組成が異なることを発見した.領域内の他の班で扱うデータも解析を実施し,翻訳アレスト配列やストップコドンリードスルーが起きるタンパク質の構造を調査した.
2: おおむね順調に進展している
研究推進チームが順調に活動しており,システム開発,アノテーション,データベース開発が軌道に乗っている.情報解析についても条件付折りたたみ領域や液ー液相分離するタンパク質について論文発表を行うことができた.当初考えていたよりも,天然変性タンパク質の状態遷移をフォーマット化するのは単純ではなかったこと,これによりシステム開発工程は幾分複雑なものに成らざるを得ないこと,は不測の事態であった.しかしこれを乗り越えることで当初想定していたよりも実り多い成果が得られると期待している.また,2022年度11月にデータベースサーバが外部からアタックされるという被害が生じたが,数ヶ月をかけて堅牢なシステムを再構築することができている.
データベース開発,情報解析をこれまで通りに進めていく.データベース開発では蓄積されつつあるアノテーション結果を公開すべく準備を進めていく.情報解析については,ノンコーディングRNA由来のタンパク質など,ホモログが少ないタンパク質で天然変性タンパク質の予測結果が予測ツールによって大きく変わることなどを追求し,論文化を進める予定である.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Biology
巻: 12 ページ: 182~182
10.3390/biology12020182
FEBS Open Bio
巻: 13 ページ: 779~794
10.1002/2211-5463.13590
The Journal of Biochemistry
巻: 173 ページ: 255~264
10.1093/jb/mvac106
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 119 ページ: -
10.1073/pnas.2122641119
生化学
巻: 94 ページ: 548-556
Seibutsu Butsuri
巻: 62 ページ: 155~155
10.2142/biophys.62.155