研究領域 | DNAの物性から理解するゲノムモダリティ |
研究課題/領域番号 |
20H05935
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
瀧ノ上 正浩 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20511249)
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研究分担者 |
鈴木 宏明 中央大学, 理工学部, 教授 (20372427)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | DNAナノテクノロジー / 人工染色体 / 人工細胞 / マイクロ流体工学 / 分子ロボティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、DNAが、ナノ情報を元に、細胞核スケールの微小空間で、いかにしてメゾ・マイクロスケールのマルチモーダルなゲノムDNAの構造・物性・機能(液-液相分離、分子内相分離、界面張力、粘弾性、体積相転移、非平衡性など)を発現するのか、そのソフトマター物理学的な起源は何かということを解明することである。研究代表者・瀧ノ上と分担者・鈴木は、細胞の環境を模擬した容器、ジャイアントリポソームを自在に作り出し、その中でのゲノムの挙動を調べるための技術開発を行った。今年度は、マイクロ流路を用いて、少量の溶液を再現性よく均一GUVに封入する技術を開発した。この技術を発展させて具体的なDNAナノ構造の形状や配列と物性の関係を探った。その結果、粘着末端配列、塩濃度、DNA濃度に依存して、リポソーム内でDNAゲルが生成する条件を見出した。また、浸透圧等の外部刺激でそれをコントロールする方法を見出した。また、研究代表者・瀧ノ上は、独自の技術であるDNA液滴を外部から入力した、がんマーカーのマイクロRNA(miRNA)(ナノメートルスケールの分子)の有無によって、相分離・分裂させる方法を構築した。すなわち、DNA液滴のもつメゾ・マイクロスケールの流体物性によって、環境のナノ分子のセンシングができることを示しており、ナノスケールの化学反応とメゾ・マイクロスケールの物理的な性質がカップルできることを示した。また、DNAナノプレート等の構造が、液-液相分離液滴の界面に集積する現象を発見し、A01-1班研究協力者の吉川らとともに、その物理的なメカニズムの探求とともに、ナノ物質のフィルトレーションに応用できることを示した。メカニズムとしては、枯渇効果が効いていると考えられ、細胞核内などの微小空間におけるDNA集合体の性質を調べる研究へ展開が可能であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者・瀧ノ上は、計画にある通り、数nmサイズのDNAナノ構造を多数集積させた数μmサイズ(細胞核サイズ)のDNAマイクロゲルを構築し、DNAナノ構造やDNA塩基配列とマイクロサイズのゲルの物性(粘弾性等)の関係を探るとともに、液-液相分離現象とマイクロ流体デバイスを利用した均一サイズのDNAマイクロゲルを構築する技術の開発に成功している。光刺激によってDNAゲルの相転移を制御する技術の構築にも成功した。また、ポリメラーゼやヘリカーゼ等の核酸酵素によってDNA液滴の分裂・複製等の動的な挙動が付与できることを示し、酵素濃度やDNA液滴サイズに依存した、動的な物性について数理モデルを作り、実験と比較して、そのメカニズムの解明にあたっている。 また、従来、GUV形成法には多様な方法が提案され研究されてきたが、脂質二重膜の形成効率や内封物質の封入率、またプロセス全体の再現性に様々な課題あった。分担者・鈴木は、GUV形成効率と再現性を飛躍的に向上させた技術ができたことで、細胞内、核内でのゲノムの挙動を物理的にシミュレーションするための基盤が得られた。また、これらの技術を利用し、研究代表者・瀧ノ上と分担者・鈴木は、協力して「研究実績の概要」にも示したような、リポソーム内でのDNAゲルの制御が実現しつつあり、DNAナノテクノロジーを利用した、メゾ・マイクロサイズ(細胞核サイズ)のDNA集合体の物性研究が順調に進んでいる。さらに、DNA液滴をmiRNAセンシング・コンピューティングへ応用する技術などの開発にも成功し、新たな展開も見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
代表者・瀧ノ上は、これまでの基礎技術を発展させ、DNA液滴等のメゾ・マイクロスケールのDNA集合体の化学エネルギー(ATP等)や酵素存在下での動的物性についてさらに検証し、物理メカニズムを探求する。また、それらを応用した人工細胞核の構築にも着手する。分担者・鈴木は、マイクロ流路による均一GUV生成技術を用い、(1)混雑環境が遺伝子発現に与える影響の解析、および(2)DNA凝集たんぱく質がDNAのコンフォメーションに与える影響、について詳細な検討を行う。また、必要に応じ、本技術を領域内の他の研究グループに提供する。
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