研究領域 | DNAの物性から理解するゲノムモダリティ |
研究課題/領域番号 |
20H05937
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西山 朋子 京都大学, 理学研究科, 教授 (90615535)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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キーワード | クロマチン高次構造 / コヒーシン |
研究実績の概要 |
(1)コヒーシン・コンデンシンによるDNAループ形成のメカニズム 本年度は、昨年度に引き続き、コヒーシンによるDNAループ形成のメカニズムの解明を進めた。昨年度の研究で、過去に報告されているDNAとコヒーシン複合体の化学的架橋実験から得られている情報を参考に、ヒトのコヒーシン複合体とDNAが高頻度に接触する可能性がある残基を予測し、これらの部位の変異を有するタンパク質複合体の精製と細胞の作出を行った。Alphafold2による予測と、白血病で見られる変異を参考に、コヒーシンサブユニットの一つであり、白血病において高頻度で変異がみられるSTAG2のN末端欠損、C末端欠損、N末端側と中央領域における点変異を中心に7種類の変異体の作製を試みた。いずれも変異型タンパク質複合体の精製には成功し、変異型細胞の作出を現在行っているところである。これらの変異型タンパク質複合体を用いたDNAループ押出し活性の評価も並行している。コヒーシンによるDNAループ押出の詳細な分子メカニズムを一分子レベルで明らかにするための一分子FRET解析系の構築においては、STAG1―Scc1相互作用に着目し、Scc1およびSTAG1側の複数の変異体を作製することで、コヒーシンとDNAとの相互作用を観察するための実験系を構築した。 (2)発生時期に応じたクロマチン構造と物性の変化 昨年度立ち上げた発生過程におけるクロマチン高次構造解析法の確立に引き続き取り組んだ。また、発生過程におけるクロマチン構造制御因子の発現の増減を調べ、HiC解析と照らし合わせることでクロマチン構造変化の原因を考察するための予備データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、DNAループ形成メカニズムを明らかにするための変異体作製を進めた。昨年度から引き続き解析を進行しているヘッドドメイン開閉操作可能なコヒーシン変異体については、変異体発現細胞の分裂期における表現型を解析し、ヘッドドメインを開いてコヒーシンリング内径を広げることが、コヒーシンのクロマチンからの解離にも必要であること、その阻害により、姉妹染色分体間接着が安定化し、過剰接着の表現型が現れることを明らかにした。さらにこの変異体発現細胞において、クロマチン高次構造をHiCを用いて解析し、ヘッドドメインの強制的なテザリングによってゲノムDNA上でのDNAループの数はほとんど変化しないが、より小さなループが消失し、より大きなループが増加する傾向にあることを明らかにした。 DNAループ形成メカニズムにおけるコヒーシンの非SMCサブユニットの役割を明らかにするため、過去に報告されているDNAとコヒーシン複合体の化学的架橋実験から得られている情報を参考に、ヒトのコヒーシン複合体とDNAが高頻度に接触する可能性がある残基を予測し、これらの部位の変異を有するタンパク質複合体の精製と細胞の作出を行った。Alphafold2による構造予測と、白血病で見られる変異を参考に、コヒーシンサブユニットの一つであり、白血病において高頻度で変異がみられるSTAG2のN末端欠損、C末端欠損、N末端側と中央領域における点変異を中心に7種類の変異体の作製を試みた。いずれも変異型タンパク質複合体を精製できた。
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今後の研究の推進方策 |
コヒーシンのヘッドドメイン開閉によるリング構造変化の重要性を細胞内で明らかにするため、強制的テザリングが可能な細胞において、RNAseq等の手法によって遺伝子発現の変化を解析する。また、一分子解析のために作製している7種類のSTAG2変異体を有するコヒーシン複合体を用いたDNAループ押出し活性の評価を行い、野生型と比較する。これと並行して、これらの変異体を発現する細胞をゲノム編集を用いて作製し、細胞内での機能解析を行う。 コヒーシンによるDNAループ押出しの一分子レベルのメカニズムを明らかにするための一分子FRET解析系の構築を引き続き進め、一分子FRETが安定して再現性良く機能する系を構築する。一方今年度作製したSTAG1―Scc1相互作用に着目した変異体について、Scc1およびSTAG1の結合性や、DNAへのコヒーシンの結合性をEMSAや一分子観察で評価し、DNAループ押出しや接着機構のメカニズムを考察する。
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